第21話 世界一凡庸な攻撃
「リムは魔王なのは知っているはね?厄災を操り、絶対的な力で暴虐の限りを尽くす魔王よ。」
「今のリムさんと真逆だけどな…」
「そう、リムは厄災の降りかかる、臆病で白目をむくのが得意な魔王なの。。」
「でも、厄災は大げさじゃないか?ボクサーパンツに凄く絡まったくらいで。」
「そうね。パンツぐらいならね…ねぇ、鈴木は魔界に広がっていた地割れを見たわよね?」
魔界のことはよく覚えている。
見なれない景色だから覚えているわけではない、残虐な犯罪の一部始終を見ていたかのような、忘れることのできないトラウマのような景色だったからだ。
「あの地割れは、一人で暇を持て余したリムが、理想の恋愛をポエムにした黒歴史のノートが原因なの。」
「ど、どういうこと?恥ずかしいノートが地割れに繋がるのか?」
「そうよ。リムが考えたポエムノートを見つけた私は、目についたポエムをゲラゲラ笑いながら口に出したの。そしたら、破滅の魔法と並ぶほどの崩壊現象が起きた。。」
「え!?!?」
「結果、学校の半径20㎞は地割れが起きて草木は根絶。全壊した校舎は何度立て直しても、廃墟のような有様になってしまう。呪われた大地に変わり果ててしまった。」
「マジな方の黒歴史じゃないか…」
「リムの理想の恋愛を書いたポエムノートは、禁術の魔導書と変わりない力を持ってしまう。彼女は厄災を操れないけど、厄災は確実にリムについて回っているの。」
なるほど。
彼女自身が誰も傷つけるつもりがなくても、近くにいると厄災に巻き込んでしまうということか。
「待て。リムさんのポエムが破滅的だったわけではなく、リムさんの厄災の力が破滅的だったってことでいいか?」
そんなに聞く必要のないことだと思ったが、聞かずにはいられなかった。
「いや、ポエムの内容も破滅的だったわ。」
ぜひ、黙読してみたい…
でも、これって、、
「厄災なんて、どうしようもないじゃないか。誰にも止められないよ。」
「そう。だから、あなたに先に教えといたのよ。」
フェイズさんは、忠告はしたと眼で訴えると、俺の両頬から手を放し、拘束を解いた。離れていった温もりが少し名残惜しい。
「…え。何か対処法があるんじゃないのか?」
「ないわよ?」
「じゃあ。何故フェイズさんは平気なの?」
「体が強いからよ。」
「…リムさんを
「くっくく、大丈夫よ。私が鈴木を鍛えるし守るからさ!」
ニヤッっと笑ったフェイズさんは、何かを企んでいる目をしている。
何を企んでいるかわからないが、本物の悪魔系女子の笑顔は、俺の心臓を掴んで離さなかった。
キーンコーン!カーンコーン!
「へ~~!こっちのチャイムは、何だか不気味ね~!」
「俺からすると魔界のチャイムの方が、ずっと不気味だよ。」
「ふ~~ん。あ!もう放課後になったんでしょ?じゃっ!行こっか!」
「うん。放課後になったけど、どこに行くの?」
俺の質問はお構いなしに、フェイズさんはルンルンと鼻歌を歌いながら、俺の手を掴んで、昇降口に向かっていく。
あぁ、このまま手を繋いで行けるなら、俺は冷酷な魔界にだってついて行ってしまいそうだ。
「ふふふ。やぁフェイズ。もうすぐ学校の時間だぞ。どこに行く気だ?」
昇降口に着くとマントの襟がピンと立った、青白い肌の男がフェイズさんに話しかけてきた。
俺はこの男に見覚えがある。ドラキュラ伯爵のスタークだ。
「チッ!あんたなんで人間界にいんのよ。」
「フェイズが心配でね。つい来てしまったのだよ。ふふふ。」
「私の居場所がなんでわかったのって聞いてんのよ。」
「運命の赤い糸を辿ったに決まってるだろ?ふふふ、さっ、吾輩と魔界に帰るぞ。」
青白い手がフェイズさんの艶やかな頭髪を乱暴に掴み、自分の方に引き付ける。
怒りに翼を震わせるフェイズさんだが、スターズを睨みつけるだけで、抵抗しようとしない。
「ふははははは!そうだフェイズ!貴様は吾輩の物なのだ!!」
フェイズさんの少し尖った耳先を、スタークの青紫色の舌が伝う。
それでも、フェイズさんは悔しそうに下唇を嚙みしめるだけで、手を出そうとはしない。
リムさんの友達になったせいで下げてしまった自分の家名を、再び権家に返り咲かせる為に、フェイズさんはこの薄気味悪いスタークと、本気で結婚するつもりなんだ。。
「おい!!フェイズさんを放せ!!」
「ふははははは!!…何か言ったか?人間。」
「…鈴木?」
人間界の王だとか、悪魔の女王だとか、相手が吸血鬼だとか、全く考えずに俺はスタークと対峙した。
「鈴木何してんの!?あんた人間界の命運背負ってんのよ!?私なら大丈夫だからほっといて!!」
「貴様が人間界の王か?ふふふ、吾輩にとって人間なんぞ食物以上の価値などない。王とて同じだ。邪魔をするなら蹴散らすぞ食物。」
俺と対峙しても微塵も態度を崩さないスターク。
「人間代表だから…人間界の王だからこそ!!この状況を見逃すような、非人道的なことはできない!!」
「ふははははは!!人間風情に何ができる。吾輩を力でねじ伏せるか?時間の無駄だ。貴様は自分に相応しい雌豚と戯れていろ。」
「…鈴木。残念だけど、スタークには人間じゃ勝てないわ…」
スタークの嘲笑交じりの声は、鼓膜に絡みつくように残り、俺に凄まじい苛立ちを与えた。
だが、それよりも俺を引き下がれなくしたのは、フェイズさんの言った正論だった。
化け物の中でも、かなり上位の戦闘力を誇るドラキュラに、人間界で一番凡人な俺が勝てるはずがない。
超絶可愛い笑顔の女の子一人も守れない現実が悔しい。
でも、ここで引き下がるような人間になるなら、死んだ方がましだと思った。
「クソ野郎がっっ!!」
スピードは人並み、パワーは全国平均値、テクニックは素人。この世で一番凡庸なパンチをスタークにお見舞いする。
ドガッ!!
俺の全力を注いだパンチは、全くよける気のなかったスタークの腹部に衝突する。
「ふっははははははは!!」
「うぐっ!!」
硬っい!!!痛っい!!!
こいつ腹にヌリカベでも住まわせてんじゃないの!?
次に繰り出されるであろうスタークの一撃に備えようとするが、拳が痛くて防御に集中しきれない。
…ズダン!!
「ぐぅぬぅ…」
スタークの忌々しい笑い声が止んだと思えば、スタークは床に両膝をついて、口から血を流し始めた。
「え!?」
「へ…!?」
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