第20話 vsパンツ
「えー、では、空いてる席に適当についてください。」
「先生、空いてる席なんてありませんけど。」
「席が空いてないなら奪い取るんだ。それができない奴は、この教室にいる資格なんてない。」
「「!?」」
先生は酒が残っているのかもしれない。
突然、ジャングルの学校で考案されたような、弱肉強食な教育方針をとりだした。
「フェイズ!こ、これが人間界なの!?」
「教育する立場の人間が言うんだから間違いないわ。まるで魔界ね。」
「どうする!?人間を傷つけるわけにはいかないわ!天界が黙ってないもの!」
「う~ん、よくわかんないけど、ちょうど良かったんじゃない?」
「え?どういう意…?」
スパーーーーーーン!!
「邪魔よ!」
俺の前の席に座っていた栗田は、フェイズさんに頭を鷲掴みにされ、教室の外に放り投げられた。
おもちゃのように放り投げられた栗田は、まだ自分の現状に気がついていない表情で、教室から姿を消す。
「えっと~、リムはここがいいかな。」
俺の隣の席の田中さんに向かって、フェイズさんの手が伸びていく。
「お、お、お、お譲りしますーーー!!」
きっと、彼女にはフェイズさんが死神に見えたに違いない。
田中さんは、椅子から勢いよく立ち上がり、教室の後ろに置かれている、掃除用具の入ったロッカーに身を潜めた。
「私はこっちに座るから、リムはここの席にしなさい!」
ガタ!ガタガタッ!
「ちょっと、フェイズ//!なんで私の席を鈴木君の席にくっつけるのよ///!」
「だって、さっきリム言ってたじゃない!鈴木君にコッソリ返さないといけないって!席が近いほうが返しやすいでしょ?」
フェイズさんが机を動かす度に、左右に揺れる豊満な胸が、俺の全神経を奪取し、周りの音を認識できない。
恐らく悪魔の女王であるフェイズさんの、魅了の魔法にかかってしまったようだ。
いや、魔法であってほしい。
「鈴木くん!!鈴木くんってば!!これ!!間違って持ってきちゃいました!返します!!」
魅了から解かれると、大声を出すリムさんが顔を真っ赤にしながら、両手を突き出していた。
その白く細長い綺麗な両手には、大事そうに握られた俺のボクサーパンツがある。
「ちょっと!!あれって!鈴木のパンツ!?」
「えぇええぇーー!?なんであんな美女が、鈴木の脱ぎたてパンツを持ってるんだ!?」
「お、おい…まさか、あのどこまで皮を剥いても凡人で、あだ名が玉ねぎ凡人の鈴木に彼女が!?」
「「「えぇぇーーー!?」」」
学校内の誰かと誰かが手を繋いで歩いていただけで、教室中その話題で持ち切りになるような年頃だ。
転校初日の美女が、美しい手に俺のパンツを握っている。
こんなに刺激が強い状況に、みんなは過剰に反応してしまった。
「おい!隣のクラスの鈴木に彼女できたらしいぞ!」
「しかも、彼女は超絶美人で、鈴木の脱ぎたてパンツを所有しているらしい!!」
脱ぎたてパンツの衝撃は、隣のクラスにまで伝わっていく。
というか、いつから脱ぎたてパンツになったんだ…
「ごめんなさい!私!き、緊張しちゃって///!!」
リムさんは頭から湯気が出そうなほど、真っ赤になっている。
元をたどれば、俺が魅了されて、周りの音に気がつかなかったのが悪いんだけどな…
熟れたトマトのような頬を隠そうとするリムさんは、両手で顔を覆う。
俺のパンツを持ったまま…
「きゃっーーーー////!!」
「な、何してんですかーーーーー///!?」
リムさんは、顔に押し当てた俺のパンツを、慌ててぶん投げるが、窓から入り込んだ春の強風が、桜の花びらと共に、俺のパンツを空中で躍らせる。
パサッ
俺のパンツは神の意志が働いたかのように、リムさんの頭に被るようにして着地した。
「いやーーーーー///!!」
「スケベな呪いにでもかかってんのかアンタは!!」
「きゃーーーーーー////!!」
リムさんは慌てて頭からパンツを取ろうとするが、両手はパンツと頭部の隙間を滑っていき、本来なら股を通すべき場所から、リムさんの両手が突き出る。
「どうなってんの〜〜////!?!?」
「アンタがどうなってんだよ!!」
「ぐえぇ…!」
腕をスルスルと流れ落ちたパンツは、リムさんの両肩と首をガッチリと拘束した。
「ちょっとリム!!」
ここでようやく、魔王のお世話役であるフェイズさんが、助け舟を出…
「キャッハハ!スカート汚れてるじゃない!」
「そこーーーー!?リムさんが魔王から変態にジョブチェンジしてることに気づいてあげて!?」
「そんなのは、ほっといても大丈夫よ~。もともと変態なんだから。」
フェイズさんは、リムさんが俺のパンツで拘束されている、異常な状態に全く動じない。
「うっぐ!ひっぐ!変態じゃないのに…パンツ怖い~~~~~!!!」
タタタタタタタタタタ!!
拘束を解けずに踠いていたリムさんは、泣きながら教室から出ていった。。
勇者どころか俺のボクサーパンツに泣かされる魔王。
俺が統制する人間界なんかより、ずっと魔界の方が危うい状況なのかもしれない。。
「鈴木。ちょっと話しておきたいことがあるの。」
「ん?どうしたの?」
「リムについてよ。。あなたはリムと結婚するんだから、知っておいてほしいの。」
「親にも婚約者決められたことないのにっ!!」
「鈴木、真剣な話よ!」
眉間に少し皺を寄せた彼女は、俺の顔を両手で挟み、澄んだ薄紫色の瞳を無理やり直視させる。また魅了にかかってしまいそうだ。。
会ってから何日も経たっていないが、彼女について理解していることがある。
普段明るく振舞っている彼女が、真剣な顔をする時は、決まって大事な友達の事が絡んでいる。
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