第18話 波乱の人間界
いつもと同じ時間、同じ制服、同じ通学路を歩く。
「…」
だけど、一つだけいつもと違った。。
「ちょ、ちょっと!あの人って!」
「う、嘘!?本物っ!?」
街行く人達が俺の顔を見るなり、血相を変えて後をつけてくる。
タッタッタッ!
10人ほどついてきたところで、気味が悪くなり早み足になる。
「おい!!こっちだ!!見つけたぞ!!」
「きゃっ!!あの子よ!あの子!!」
「俺のもんだ!!」
「あたいのもんだよっ!!」
どっどどどどどっどどどっどど!!!!
10分もしないうちに道を埋め尽くすほどの大行列となった。
「はぁはぁはぁ!!なんで追いかけて来るんですかーーー!?」
「「「「待てこらーーーーーーー!!!!」」」」
見ず知らずのおっさんにタックルされてからは、死ぬものぐるいで逃走し始めた。
俺が追いかけられる理由は分からないが、目を血走らせ、我先にと俺に手を伸ばす人々を見ると、捕まると危険だと本能が悟る。
今や参勤交代を思わせる大行列と、地鳴りのような足音で、前を歩いていた人も振り返り、俺に襲いかかってくる。
「ぜぇぜぇ…や、や、やばい!!!」
「「「「アイツだーーーーーー!!!!」」」」
ついに前からも、ヌーの大群のような人の群れが押し寄せてきた。
退路を失い、絶望感に打ちひしがれる。
「はぁはぁはぁ…もうダメだ…」
額から流れる汗が目に入り、視界がぼやける。
この視界が治る前に、俺はこの大群に捕まり、もみくちゃにされるだろう。
本当に死ぬかも知れない。。
昨日の落下物に下敷きにされる恐怖とは、また違った恐怖が俺を襲う。
ずどーーーーーーん!!!
シュバババババババババ!!!
前方の大群で異変が起きた。
先頭を走る人々が空中を高々と舞い、ヌーの大群の中から異常に速い猪が飛び出してきた。
「め、明!?!?」
「あれ!?鈴木じゃんっ!よっとっ!」
この状況でも平然としている明は、俺を肩に担いで後ろの人の群れに向かって走る。
「おい!明!何してんだ!あの大群が見えないのか!?」
「見えてるわよっ!だから急いでるんじゃないっ!」
「はっ!?何を言って…って!おい!?」
明は俺を追いかける人の顔を踏みつけて、平然と大群の上を走っていく。
コイツ…人の顔が道路にでも見えてるのか?
あと、パンティー見られても平気なのかお前は…
「しっかし、こんなにブリトーが流行るなんてねっ!」
「へっ!?ブリトー??」
「あれ!?鈴木もブリトー買うために走ってたんじゃないの!?」
「お、おい。お前は今ブリトーの為に走ってるのか?」
「だって!さっきテレビで見たブリトー、最高だったじゃん!!」
「いや、見てないけど。。」
「あら~、これだけの人が見てるのに…鈴木って遅れてるねっ!」
少しドヤ顔をしている明だが、この人の大群がブリトー目的で走ってるわけがない。
どうやら、明はまた勘違いして突っ走っているらしい。。
「…あ!待てよ!そうだ!!明っ!!そういえば、あっちにブリトーがあったぞ!」
「え!?そうなのっ!?さすが私の日本地図!」
「いや、近所だけしかわかんねーけど…」
無論。ブリトーなんかない。というか、ブリトーが何か知らない…
だけど、この状況では明だけが頼りだ。
このまま適当なことを言って、明を学校に向かわせよう。
「そこの角を右に曲がった所に、ブリトーが逃げ込んだぞ!」
「よっしゃー!!」
キーンコーン!カーンコーン!
さすが明だ。
人の群れを回避するだけでなく、遅刻まで回避してくれるとは、、
「明!下ろしてくれ!ここからは一人でくるようにブリトーに言われてるんだ!」
「わかった!鈴木!気をつけて行くんだよっ!」
…ブリトーってなんだったんだろう…
学校に着いてすぐに明と別れて、自分の教室へ向かう。
「ふぃ~~!セーフだ!」
2-Bの教室を開けると、クラスメイト全員が俺を見ていた。
さっきまで追い回してきた人々と同じように、目が血走っている。
「「「「「…」」」」」
いつもと違い、静けさに包まれている教室を、誰に飛びかかられても躱せるように、身構えながら自分の席に向かう。
俺の一挙手一投足を見逃さないよう、全員が瞬きをせずに俺を見ている。
「おはよーススギ!」
「おはよう栗田。なぁ、みんな様子がおかしくないか?」
目は血走っているが、襲ってくる感じがしない栗田に、一夜にして変わってしまった街の人々やクラスメイト達について聞いてみる。
「あん?まさかお前知らねーのか!?」
「え!?お前知ってるのか!?」
考えれば知っていて当然だ。
みんなと同じように目を血走らせているのだから。
「ブリトーの来日が決まっ…」
「それ以外で!!」
こいつの目の充血はブリトーのせいらしい。。
明といい栗田といい、俺が頼れるやつは、常軌を逸した馬鹿しかいないのだろうか。。
「ブリトー以外!?…う~ん!そういえば、朝のニュースでお前を生け捕りにしたら、金剛財閥が100億円くれるって言ってたぞ!」
「へっ!?」
「100億円って何円なんだろうな!あっはは!」
栗田が万よりも上の単位を知らなくて助かった。。
どうやら、世界一の金持ちで、世界一権力のある金剛財閥が、海賊王クラスの懸賞金をかけて、俺を捕まえようとしているらしい。
…あれ?そういえば、金剛って金界の女王と同じ苗字じゃないか?
カッカッカッ!
ハイヒールの小気味の良い足音が近づき、教室の窓ガラスに大男の影が落ちる。
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