第15話 無垢な勇者と不幸な魔王

ドガンッッ!!


校長室の扉を吹き飛ばして、フェイズさんとリムさんは廊下に飛び出る。


「あっ!!鈴木見っけ!!あっはは!」

めい!!」


校長室を出ると、二足歩行するユニコーンに肩車されている明に出くわした。

ユニコーンはともかく、ずっと心配していた明を見つけて心底ホッとした。


「明!一緒に人間界に戻るぞ!」

「やった!帰り方わかっ…!?」


満面の笑みだった明は急に俯き、俺の方を睨み始めた。

正確には、俺の両腕を胸の谷間で拘束する、フェイズさんとリムさんを睨みつけている。


「ねぇ…その人達は誰?」


重く冷たい魔界の空気を、灼熱の砂漠のように熱くする、ビリビリとした明のプレッシャーで足が竦む。


「め、明!?」


ボクッ!!!

ズッシーーーーン!!


明はユニコーンの神秘的な蒼い角を軽々と折り、刀のように右手に構える。

チャームポイントを理不尽に失い、ただの二足歩行する馬となったユニコーンは、ショックのあまり泣き崩れた。


「ま、まさかっ!あの人間…!」


急にフェイズさんは俺とリムさんの前に立ち、漆黒の翼を大きく広げ、戦闘態勢をとった。


ガタガタガタッッ!!


「はぁはぁはぁ…」


リムさんは震えだし、呼吸が極端に乱れ始める。


「なんでここに勇者がいるの!?」

「えっ?あれは俺の幼馴染の明ですよ?」


脳筋の明を勇者と勘違いしたフェイズさんが慌てている。

だいたい、怒りのままにユニコーンのチャームポイントを折って武器にするような、心無い人間が勇者なはずがない。


「いや…いやいやいやいやいやいやーーーー!!」

「リム落ち着いて!私がついてるわ!深呼吸しなさい!」

「ど、どうしたんですか?あいつはただの脳筋の馬鹿ですよ?」


戦闘態勢をとるフェイズさんと、取り乱して恐怖に慄くリムさんの緊迫感は、明が勇者だと確信しているようだ。

そこで魔界史の授業を思い出した。

そうだった、先代の勇者も牡蠣にあたって死ぬような馬鹿だったんだ。


「ちょっと待て!!明!話を聞け!」

「大丈夫、鈴木。今その魔物共から助け出すから。」


どうやら、俺が二人に誘拐されると勘違いしているらしい、明の猪突猛進は既に始まっていた。


シュッタタタタタタタタ!!

ッバッサーーーーーーン!!


二つの高速で動く物体が、ちょうど二つの中間地点で交わった。


ギャガガガガガガガ!!!

ビリビリビリビリ!!


フェイズさんの拳をユニコーンの角で受ける明。

校舎中の窓ガラスが揺れるほどの衝撃が起きる。


「でーーりゃーーーーー!!!」

「くっ!!これが勇者か!!」


バキッ!!ズバババ!!ズババキキ!!!


二人はその場で高速の戦いを繰り広げているが、全く目で動きを追うことができない。

運動競技において負け無しの明は、剣道の腕も超一流だが、果たして人間が悪魔の王に勝てるのだろうか。


ザザッ


少し。ほんの僅かであるが、フェイズさんが下がってきている。


「鈴木を返してっっ!!!」

「なんて力なのっ!はぁはぁ。。」


フェイズさんは息が切れ始め、明の太刀筋を躱しきれなくなってきた。


「フェイズが…はぁはぁ…私も戦わなくちゃ…」


リムさんは産まれたての小鹿のように足が震えている。

普通の人間である俺でさえも怖がる、臆病で弱気な性格のリムさんだ。先代の魔王を殺した勇者を前に、激しく恐怖して動けなくなるのは当たり前だ。


「守られてばかりじゃダメ。。私もフェイズを守らなくちゃ!」

「リムさん…」


恐怖で震える足を無理やり動かして、一歩目を踏み出すリムさん。

この一歩は小さいが、魔王にとっては大きな飛躍だ。


ズルッテーン!!

ガッッツーーーーーン!!!


「…え?」

「何っ!?」

「…はぁはぁ。リム?」


激しい攻防戦の最中でも、聞こえる轟音が鳴り響いた。

予想外の音で、明もフェイズさんも距離をとって警戒している。


リムさんが踏み出した偉大な一歩は、床に広がる液体で滑り、大転倒する結果となった。

轟音の正体は、リムさんが廊下に頭を打ちつけた音である。


「…こ、この液体は。まさか!」


リムさんを大転倒させた液体は、俺が校長室に連れてこられた時に出した、イカ飯の吐瀉物だった。。


リムさんは綺麗に白目を向いて気絶している。。

どこまでも不運な魔王をみていると、なんだか守らないといけない存在に感じてきた…

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る