第14話 いじめられっ子と優しい悪魔

「あの、、なんで泣いてるんですか?」


野暮な質問かとも思ったが、二人の涙を見ていると、どうしても二人の関係性を知りたくなった。


「あっ!鈴木ごめんね…えっとね~?」

「ぐすっ、フェイズ。大丈夫、私が話すわ。。」

「でも、リムまだ泣いてるじゃない。ぐすっ」

「ふふっ!フェイズもね。」


リムさんの笑った顔を初めて見た。

冷たい大地に射す一筋の光のような。暖かい笑顔だ。


「私が泣いた理由わね。フェイズ以外に優しくされたことがなかったからよ。平たく言えば嬉し泣き。あっはは…」

「え?優しくされたことがない?」


リムさんは魔王だろ?

全員にチヤホヤされるに決まってるだろ。


「鈴木くん。私はね。牡蠣で死んだ勇者に殺された大魔王の末裔なの…つまり、牡蠣以下の魔族。勇者の逸話のせいで、私はみんなから嫌われて、イジメられてた。。魔族の恥めって言われてね。」

「勇者の死因のせいで魔王がイジメを…?」

「そうよ。リムには小さい時から、親も頼れる族もいなくて、残酷な魔界の中でも一番過酷な生活を孤独にしているの…」


誰も使わない校長室の換気扇の中にいた理由がわかった。

誰にも見つからないように通学するためだ。


「そんな私の友達になってくれたのがフェイズなの。。私は彼女がいなかったら、優しさなんて知らなかった。自分は牡蠣以下の種族だって思い込んだままだった。だから、この世で唯一感謝している魔者まものはフェイズ。」

「…ぐすっ。リム…」


再びフェイズさんは涙をこぼした。本当にリムさんを大切な友達と思っているんだろう。

まさか。さっきフェイズさんは、リムさんが自分以外に優しくされている姿を見て嬉し泣きしたのか?

俺まで涙が出てきそうだ。。


「ぐすっ。私は何も悪いことをしていないリムが、四面楚歌になっている状況が許せない。だから、人間界の王になった鈴木を連れてきたの!」

「…フェイズ?」

「俺にできることがあるのか??」


「リムと結婚して!!鈴木!!」


「な!なにを言ってるの!?フェイズ//////!?」

「へ!?」

「リムと結婚すれば、魔界と人間界が繋がることになる!そうすれば、天界に潰される心配もないし、人間界の王の嫁になったリムも、魔界を救った功績で、イジメを受けることは無くなる!!お願い鈴木!!」


深々と腰の位置まで頭を下げたフェイズさんのお辞儀は、切なくなるほど誠意がこもっていた。


「す、鈴木くん///!今のフェイズの話は忘れて!」

「え!?!?」

「鈴木くんは、フェイズと結婚してほしいの!!」

「「ええぇぇーーーーー!?」」


フェイズさんも予想外だったらしく、俺と共に驚愕している。


「フェイズは!私と仲良くしているせいで、自分の家名を下げてしまったの!!だから、フェイズこそ鈴木と結婚して、名家に返り咲いてほしい!!」

「リム…なんで、そんなこと知って…」


フェイズさんは家族の名を落ちぶれさせてでも、リムさんと友達になったって言うのか!?

そして、嫌っている男と嫌々結婚して、家族を助けようとしている。。

フェイズさんは華奢な背中に、一体どれだけの重荷を背負っているのだろうか。


「鈴木くん!お願い!フェイズと結婚して!」

「鈴木!リムを助けて!リムと結婚して!お願い!」


選べるわけがない…

生まれた頃から何も悪いことをしていないのに、無情な集中砲火を孤独に受け続ける不幸な魔王と、自分を犠牲にして家族と不幸な魔王を助けようとする優しい悪魔。


「ちょ、ちょっと待って!そんなこと突然言われても困るよ!」


考えたところで、どちらかを婚約者に選べるとは思えないが、考えずにどちらかを選ぶことは、さらにできないと思った。


「…そ、そっか、鈴木くんの気持ち考えてなかった。。フェイズは好みじゃないってことね?」

「魔界屈指の美貌をもつリムを気に入らないなんて…人間界には余程美しい人がいるのね。。」

「いやいや!そう言うわけじゃないんだけど!!」


どうやら俺が、彼女達の容姿をお気に召さなかったから、結婚の返答に困っていると思われたらしい。

大きな誤解だ。二人とも容姿も性格も完璧だと思う。。

自分の妄想していた理想の彼女なんて大きく越える人達だと思う…

それこそ、種族の違いなど、どうでも良くなるほどに。


「いいのいいの!人間の王だもん。モテないはずがないわ。」

「そうよね…きっと人間界に素敵な恋人がいるのね。」

「いやいや!恋人なんていないけど!!」


手を顎に当てて深刻そうな表情をしている彼女達は、俺の話をまったく聞いていない。。


「リム…」

「フェイズ…」

「「人間界に乗り込むわよ!!そして、鈴木(くん)の恋人から鈴木(くん)を奪い取るのっ!!」」


同時に同じ答えにたどり着く二人。


「いや、人の話聞いて!?!?」

「そうと決まれば、私の下駄箱から人間界に行くわよ!!」

「え…フェイズの下駄箱の臭い、嫌だけど…行こっ!!フェイズのためにっ!」

「隣の栗田の靴箱が臭いんだからね!?あと、リムのために人間界に行くのよ!?」


方針が決まり、スッキリした美しい顔の魔王と悪魔は、俺の両腕をガッシリと掴み意気揚々と校長室を飛び出した。


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