第12話 勇者の死因は恥ずかしい
大きな亀裂の入った黒板の前には朽ちた教台が置いてあり、一つ目の青鬼が立って授業を行っている。
魔界史という魔界の歴史の授業らしいが、先生は常に金棒を肩に担いでいる。
今日来た先生が、全員武装していたことから、この学校の治安がどれくらい悪いかわかる。
治安が悪すぎる学校の先生は、全員体育教師みたいな人材になると聞いたことがあるが、それは人間界だけではないようだ。
「え~~そのため、勇者という役職の人間に魔王は破れ、魔族は絶滅の危機に貧しましたが、勇者が牡蠣による食あたりをおこして他界。そして、なんやかんやで魔族は増えて今にいたる。」
疑いたくなるほどファンタスティックな歴史だ。
牡蠣で死んだ勇者からは数百年間、人間界に勇者は現れていないらしく、現在は人間界の王が政治的に、魔界と天界のバランスを取ることによって、人間は生き延びているらしい。
教室に居る妖怪やUMAを見ていなければ信じなかっただろうな。。
でも、どうしても一つ、信じがたいことがある。。
「勇者の死因は本当なのか?魔王に殺された方がまだ格好がついたのに…」
「ほんとよ。。そのせいで今の魔王は。。」
「へ?」
「…なんでもない。」
常に明るいオーラを放つ彼女の表情に、少し影がさしたように見えた。
ギーンゴーンガーンゴゴゴゴゴン!!
授業終了を伝える不気味なチャイムは、何度聞いても不快感があった。
「え~~、それでは本日の授業を終了します。各自速やかに下校するように。」
どうやら、全授業が終了したようだ。
バンッ!!
シュバババババババババ!!
授業終了後、最初に教室の扉を開けたのは、先生ではなかった。
「ふぇ、フェイズさん!!いきなりどこ行くの!?」
「朝話したじゃない!あなたに応援して欲しい子のところ!魔王のところよ!!」
フェイズさんは俺を縛る縄を床に足がつかないほど、凄いパワーとスピードで引っ張って走る。
廊下の窓から見える地獄のような魔界の景色が凄い速さで流れていく。
は、吐きそうだ。。
「ん?てか、今魔王って言ったか?」
え。俺が魔王応援すんの!?人間界で一番凡人の俺が!?魔界の王に何かアドバイスできることあんの!?
ズギャギャギャギャ!!!
やっと止まった!!
これも乗り物酔いというのだろうか。
気持ちが悪くて、今にも吐瀉物が出てき…
「うおぇぇーーーええ!!」
吐き気を我慢できずに、思いっきり廊下に吐瀉物をぶちまける。
昼飯に食べた消化されかけのイカ飯を見て、昼間の学校生活が凄く平和だったなと思った。。
「何してるの鈴木!入るわよ!」
「ちょっと待って。。まだ具合悪くって。。」
コンコン!
ガチャ!
「リム〜入るわよ〜?」
「フェイズさん、人の話聞いてる??」
まだ吐くか吐かないかの瀬戸際にいるというのに、フェイズさんは悪趣味な木彫りのドアを開けて、どんどん中へ進んで行く。
縄で縛られているため、しぶしぶついて行くと、高級そうなソファや机が並べられている部屋にでた。
校長室みたいな部屋なのだろうが、あちらこちらに蜘蛛の巣がはり、トロフィーや棚はホコリをかぶっていて生物の気配がない。
「あれ!?リム〜?いないの〜??」
「ぐすっぐすっ。。何しにきたのよフェイズ。。」
「きゃっ!そこにいたのねリム!!」
天井から声がした。
慌てて上を確認するが、なんの変哲もない、汚い天井しかない。
「え!?どこにいるの!?」
「ほらっ!そこよ!換気扇のところよく見て!」
「換気扇…?」
天井に取り付けられた換気扇を凝視すると、光を反射する物が二つあることに気が付く。
「リム!降りて来て!」
「やだっ!!人間いるじゃんか!!」
「そうよ!でも、勇者じゃないわ!」
「勇者は人間!人間は勇者!よって人間は敵よ!」
「あんた人間全員が勇者だと思ってんの!?何億人いんのよ!」
「。。。だって、怖いんだもん。。」
「大丈夫!この人間の王は超絶普通の人間なの!あんたの方が強いわ!」
「…私のほうが強いって言ったって、人間を傷つけたら天界が黙ってないわ。」
「。。。いいから!出て来いってーの!!」
バッサーーーーン!!
ガギャギャギャーーン!!
魔王を換気扇から出そうと、説得していたフェイズさんだったが、なかなか出てこないリムさんに苛立ち、怒りを
「捕まえたわよ!この陰キャ!!」
「やだっ!!やだやだやだやだっ!!」
ガギャギャギャーーン!!
ズガーーーーン!!
フェイズさんはリムさんを換気扇から引きずり出したが、二人共空中でバランスを崩して頭から同時に着地する。
「「いっった~~~い!!!」」
頭に同じたんこぶを作った彼女達は、二人共金髪で黒い翼が生えており、姉妹のようにも見える。
「う、う、うえ~~~ん!!」
「これくらいで泣くなっ!!」
パカン!
リムさんの頭にはえた、二本の控えめな角の間を、フェイズさんが小突く。
見た目とは裏腹に性格は真逆に近いようだ。
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