第11話 ポーカーフェイス

いつもだったら今の時間帯は、ベッドの上で延々と漫画を読んでいる。

だが、今の俺は異世界の廃校舎の屋上で、悪魔の女王と対立している。。


はっ!とりあえず、俺も自己紹介をしなくてわ!


「鈴木と申します!よろしくお願いします!あの!フェイズさんはなんで俺を魔界に呼んだんですか??」

「きゃはは!堅いな〜!同い年なんだからさ!タメ語にしよ?してくれたら教えてあげる!」

「え!う、うん。わかった。」

「ウケる!マジで普通のリアクション!じゃあ、質問に答えるけど!その前に一つ聞かせて?鈴木はなんで呼ばれたんだと思う?」

「…へ?」


恐らくフェイズさんは、俺に求婚をするために呼んだんだろう。。

でも、俺に求婚するために呼んだんだろ?って言うの恥ずかしくないか?

もし、その予想が外れたらと考えると、言葉にできるはずがない。。


「鈴木が予想した通りのことをしてあげるわよ?」


高く整ったフェイズの鼻先が、俺の耳に擦れるほど近くで囁かれる。

俺の欲を…いや、男の欲を本能の奥底から呼び覚ますような言霊に、思わず俺から求婚を迫りたくなった。


ギーンゴーンガーンゴゴゴゴゴン!!


「ざんねーん!時間切れ〜!また休み時間に話そ!」

「う、うん。。」

「あっちゃん達!鈴木を連れてきて〜!」


フェイズさんの視線の先には、柵の隙間からコッソリこちらを覗く、悪魔達の姿があった。

悪魔あくまだからあっちゃんなのかな?


「「オ任セクダサイ!」」

「女王様ハ僕ニ任セタンダ!!」

「イヤ、僕ノホウヲ見テイタ!」


「もぅ、喧嘩しないの!みんなで鈴木を連れて来て〜!」

「「ファイ!!」」


さすが女王だ。

一声で見事に悪魔達を統率した。

一丸となった悪魔達に飛びかかられたため、俺は身動き一つ取れず拘束され、引きずられながらフェイズさんに連れてかれる。


階段と廊下を引きずられ、着いたのは2ーBの教室だった。

どうやらフェイズさんの教室はここらしい。


「フェイズさん!こんな時間に来たって授業なんて終わってるんじゃないの?」

「私は夜行性だから夜間学校なのよ?魔界では大概の人が夜間学校なの。」


なるほど。さっき、百鬼夜行が学校に入って行ったのを思い出して納得がいった。


バンッ!


「ふふふ。やぁフェイズ。その人間は私のために連れてきてくれたのか?」


教室に入ると、マントの襟がピンと立った、犬歯が異様に長い男が、フェイズさんに話しかけてきた。


「違うわよ。なんでアンタにウチが貢ぐのよ。」

「決まってるじゃないかフェイズ。君は僕に求婚すべき女性だからさ。」

「うぇ~、マジであんたってキモいわぁ〜。」

「ドラキュラ伯爵に向かって気持ち悪いとはな。。その強気なところ、ますます気に入ったよ。式は盛大に行おう。」

「はぁ〜、あんたの話しって長くって太陽登りそう。」

「ふふふ、私との会話が死ぬほど楽しいということかな?」


フェイズさんは疲労感たっぷりの表情で前髪をかきあげて、ドラキュラの横を黙って通り過ぎていった。


「おい、フェイズ。その態度が今後も続くようなら、許嫁は解消させてもらう。わかっていると思うが、君の家は我がスターク家の力がなければ、再び権家となることは不可能だぞ?」

「チッ!わかってるわよ!スターク!」

「ふっ、わかっているならいい。またなフェイズ。」


自分の席に座ったフェイズさんは少し俯き、下唇を噛み締めていた。

さっきのスタークとかいうドラキュラの話から察するに、フェイズさんは家を再興させるために、嫌悪感のあるスタークと結婚しようとしているらしい。。


「はぁ、変なとこ見られちゃったね。。」

「いや、その、、魔界の生活も大変そうですね。」

「きゃはは!人間界も魔界も悩みは同じなのかもね~!」


笑う気分じゃないだろうに。俺に気を使って作った笑顔は、人間界の悪魔のイメージが吹き飛ぶほどに、俺を切ない気分にさせた。


「あのさ!フェイズさん。俺よくわかんないけど応援してるよ!」

「え!あ、ありがとう!?まさか人間に励まされるとは思ってなかったよ//優しいんだね///あのさ!実は応援して欲しい人がもう一人いるの!」

「え?もう一人?」

「そう!その為にキャシーに頼んで鈴木を連れてきてもらったの!会ってもらえないかな?」


なっなにーーーー!?フェイズさんは俺に求婚するために呼んだんじゃなかったのか!!!

完全に予想が外れて落胆と羞恥心がおしよせる…

あと、あの狂ったピエロの名前がキャシーって納得いかねーー!!


「え!?そ、そうなんだ!全然いいよ!」

「マジ!?ありがと~!よかった~!人間ってマジで優しいのね!」


フェイズさんの綺麗に上がった口角から真っ白い歯が覗いた。

薄暗い教室の僅かな光を反射して、潤んだ瞳が薄紫色に輝く。

これは彼女の心からの笑顔だ。。

可愛い過ぎる。。


「ははは…」


昔読んだ漫画に異世界の異生物と結婚する話があった。

あの時は、人間以外と結婚するやつの気が知れないと思ったが。。

今は婿入りしてからの苦労談を、その漫画の主人公に、是非お伺いしたいと思った。

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