第10話 悪魔の女王
「ヨッコラ!ヨッコラ!」
「オイッコラ!オイッコラ!」
「ぜぇ…はぁはぁ…」
悪魔の集団登校の後ろを歩き始めてから、どのくらいたっただろうか。
地割れの隙間を延々と歩いているため、景色はまったく変わらない。。
歩けば歩くほど駄々をこねる悪魔が増えて、俺の背中には10匹ほどの悪魔がスヤスヤと眠っていた。
精神的にも肉体的にも限界が近い。
「よ~しよし!可愛いでちゅね~!」
「お前も少し悪魔持てよ!はぁはぁ…」
「文句言わないのっ!そんなことじゃ、エクソシストになれないぞっ!」
「ならねーよ!!頼むからエクソシスト呼んで来い!!はぁはぁ…」
「こんな屈託のない顔の悪魔を祓いたいの?それ人間としておかしいよっ?」
「悪魔に情があるお前の方がおかしいぞ?てか、いつになったら学校着くんだよ!!」
しびれを切らして先頭の悪魔に文句を言う。
すると、先頭の悪魔はピタリと止まり上空を見上げた。
「ジャア!ココデイイヤ!」
「ミンナ!着イタゾ!」
「俺タチ!ヤッタンダ!」
じゃあ、ここでいいやって言ったか?そんな感じで目的地って着くのか?
「おっ!着いたみたいねっ!」
「う~ん、でも、おかしいぞ。俺たちの学校の近くに、こんな深い地割れが、あるわけがない。空だって暗いままだしな。」
「う~ん、考えたってしょうがないし!地上にでよっ!」
「おう。。」
地割れを最後の力でよじ登り地上に這い出る。
地上に出ると目の前には、ボロボロで汚れきった廃校舎があった。
「ガババババ!!人間がいやがる!!」
「馬鹿な下等生物ね。何してるのかしら?」
「ギャギャギャギャ!俺が食ってやろうか人間!!ギャギャギャギャ!!」
ミノタウロス、蛇女、狼男だ。。
廃校舎の昇降口には、河童や天狗といった妖怪の姿も見えた。
百鬼夜行が廃校舎に吸い込まれるように入っていく。
「なんて不気味な光景なんだ。。」
パコンッ!
思わず本音が出ると、後ろで眠っていた悪魔の一匹が俺の頭を叩いた。
「女王様ノ!学校ノ!悪口ヲ言ウナ!!」
ここが目的地の学校!?やっぱり俺たちの学校じゃない!!
「鈴木っ!見た!?ユニコーンって二足歩行するんだねっ!」
「いや、明。。ユニコーンの生態以外にも驚いてくれ。。」
「オ、オイ!人間!逃ゲロ!!」
「へっ!?」
悪魔が俺に叫んだ時には、俺の身体には海藻が巻き付き、フワリと空中に浮き始めていた。
「お前。日本人。俺の供物。」
「オ、オイ!海坊主!!ソノ人間ハ!女王様ノ物ダ!離シヤガレ!」
「外国語はわからん。」
「ダカラ!日本語デ話シテンダロウガ!!」
恐らく、俺を食べようとしている海坊主を悪魔が必死に止めてくれている。
「わかったわかった。ちゃんと美味しく頂くよ。」
「味付ケノ心配ナンテシテナイ!!」
「あ~~~~ん!!」
悪魔の説得は虚しく。俺を一口で飲み込めるほど大きな海坊主の口が近づいてくる。
今この状況になったのは誰のせいなのだろうか。。
一体誰を恨めばいいのだろうか。
とりあえず、今もユニコーンのリンボーダンスなんかに目を奪われている明を、俺は許しはしない。。
ッバッサーーーーーーン!!!
突然、凄まじい風切り音が鼓膜を打った。
「きゃはは!ほんとに来てる!!マジウケる!!」
「女王様!!笑ってる場合じゃないっす。あいつ喰われちまいますよ?」
「きゃはは!あんな薄鈍坊主にウチが獲物取られるわけないでしょ!」
ッバッサーーーーーーン!!!
また目を開けられないほど、凄まじい風が押し寄せる。
「ほーらね??」
「さすが女王様!目にも止まらない速さっす!」
目を開けると、目の前には海坊主の口はなく、豊満な女性の胸部があった。
海坊主から救出してくれた女性の両腕にキツく拘束され、息ができないほど押し付けられた豊満な胸部は、命を手放してもいいと思わせる魅惑の感触がした。
ッバッサーーーーーーン!!
「よっと!」
死と快楽の感触を堪能していると、女性が着地して俺の足が地面に着くのを感じた。
拘束がゆっくりと解かれていく。だんだんと離れる温もりに一抹の未練が残る。
「ごめんね~!苦しかった??」
「だ、大丈夫です!!」
「あ~!顔真っ赤だよ~?ホントは苦しかったんでしょ!」
「いや!そんなことないです!」
ようやく助けてくれた女性の、胸部以外を見ることができた。
真っ黒の大きな翼と健康的な褐色の肌が、美しい金髪を引き立たせている。
心配そうに俺を覗き込む、透き通るような紫色の瞳は、目があっただけで顔が火照ってしまうほど綺麗だった。
「ホントかな~?ウチ人間と接するの初めてだからさ~!直して欲しいことがあったら言ってね!直せるように頑張るからさ!」
棒つきの飴を咥えて、上目遣いで話す彼女は、どことなく人間界で言うギャルに似ている。
「ってことは、やっぱりあなたは人間じゃないんですね?」
「うん!ウチは悪魔の女王!フェイズ・フリークって言うんだよ~!よろしくね鈴木!」
ようやく、この世界の謎が一つ解けた。
彼女は下駄箱の女王じゃない。
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