第9話 ようこそ!魔界へ!!

「げほっ!げほっ!かはっ!」


狂ったピエロが俺を下駄箱の暗闇に引きずり込んでから、どれだけたったのだろうか。

冷たい下駄箱の空気に触れてからの記憶がない。どうやら気絶してしまったらしい。


それともピエロに引きずり込まれたのは元々夢だったのだろうか。


「そうだよな。ピエロが下駄箱の中に俺を引きずり込むなんて、夢に決まってるよな。」


だが、夢だったとしても一つ腑に落ちないことがある。


ここはどこだ!?!?


真っ暗な空には、真っ赤な月があり、紫と緑のオーロラが舌なめずりするように絶えず動いている。

また、大地は水分が枯渇し、地割れが無数に広がっていて、空気も鉛のように冷たく重い。


「す、すごく居心地が悪い場所だな。。ん!?」


ふわっ


初めて経験する重い空気の中で、知っている香りがした。


「シーブリーズ…?」

「ん、ぅう~ん」

「ふぇ!?めい!?」


明が俺の太ももの上で目を覚ました。

今日は体育の授業があったのだろう。明からシーブリーズの香りがする。


「お、お前なんでここにいるんだ!?」

「う、う~ん…鈴木の臭い下駄箱に、吸い込まれたからじゃない?」

「え?別に臭くないだろ。てか、まさか俺についてきたのかよ!?」

「え?臭かったよ?そう!心配だったからついてきたっ!」

「隣の栗田の下駄箱を通ってきたから臭かったんだろ。きっと。」

「いや、でも、この臭いだったし。」


明が俺の靴を指差して言う。

。。。チッ!言い訳が思いつかない。


「あ!反論できないんでしょ〜!可愛いっ!あっはは!」


明が俺の頬っぺたを人差し指でツンツンしてくる。


「ぐぬぬ…」


明とこんなくだらない話をしている場合じゃない。

ここがどこなのか、つきとめなくては。


「うるさい!いいから今どこにいるか考えろ!」

「へ?どこって、ここは鈴木の下駄箱の中でしょ。どうせ、あんたに求婚しにきた下駄箱の女王とかなんとかが、ピエロを使いにだして、私たちを下駄箱の世界に招待したのよっ。」

「異常に物わかりのいいやつだな〜。でも、下駄箱の女王はちょっとダサ過ぎないか?」

「脳筋の女王にそれ言う?ダサい名前の女王も絶対いるわよ。」

「そっかー。その女王は期待薄いな…」


明と話していると不毛な時もあるが、状況を解明する近道になる時もある。

下駄箱の中とは到底思えないが、ほぼそれで合っている気がする。

今回は状況を解明する近道になったと信じよう。


「ぺっ!話はまとまったかボンクラども!」


明との会話が一段落すると、後ろで聞いたことがある声がした。


「お、お前は!ピエロ!!」

「ちょっと!鈴木の下駄箱で唾を吐かないでくださいっ!」


明は本当にここは俺の下駄箱の中だと思っているらしい。。


「会いたかったか?僕ちゃんたち?ヒャッララララ!」

「ふざけるな!ここはどこなんだ!?さっさと学校に返せ!」

「そうよ!私たちは忙しいのっ!」


…ごめん明。俺は別に忙しくない…


「ヒャッララララ!そんなに学校に行きたいなら連れてってやらぁ!」


バッチン!!


ピエロの指パッチンがあたりに響く。


「オイッコラ!オイッコラ!」

「ヨッコラ!ヨッコラ!」


ソフトボールくらいの頭をした、二頭身の小人が二十匹ほど現れた。

皆一様に薄紫色で、背中に小さめな黒い翼がある。


「デワ!コイツラヲ!ガッコウヘ!オツレシマス!」

「よろしく。俺は女王様に現況を報告してくる。」

「「「ファイ!」」」」

「じゃあ、ボクちゃんたち!悪魔軍団の言うことをちゃんと聞くように!ほなさいなら!」


ピエロはそう言い残し、大きい地割れの中にシュッと消えた。

今悪魔軍団って言ったか?ヨチヨチ飛んでるこいつらが悪魔軍団!?

話し方や動作から小学校低学年くらいの知能しかなさそうだが…


「鈴木の下駄箱は臭いのに、住民は可愛いんだねっ!」

「いや、臭くないし。」


明は満面の笑みで悪魔たちを眺めている。


「デワ!キサマラ!ワレラニ!ツイテコイ!」


よっちよっち!よっちよっち!


全員薄紫色なので大きいブドウが歩いているように見える。

ついて行くか迷ったが、行くあてもないので悪魔について行くことにした。

学校にお連れすると言っていたが、こんなにすんなり返されるなら、ここまで連れてきた意味がわからない。

この先に罠でもあるのかと勘ぐっていると、一匹の悪魔が駄々をこね始めた。


「モウヤダッ!歩キタクナイ!」

「文句イウナ!女王サマノ!命令ダ!」

「ウワ~ン!!歩キタクナイッ!」

「オイ!ドウシヨウ!」

「ワ、ワカンナイヨ!」


ワタワタと困っている悪魔たち。

俺はその状況を見かねて、駄々をこねる悪魔をおんぶしてあげることにする。


「キサマ!イイヤツダ!」

「ヤレバデキルヤツダ!」

「救世主ダ!」

「オ値段以上ダ!」


悪魔たちに一斉に感謝される。一生懸命知っている褒め言葉を言われると、奇しくも可愛く見えてしまう。

一頻り感謝されたあと、また歩き出したが、もう悪魔軍団ではなく集団登校をしている子供にしか見えなかった。

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