第8話 とある女王からの招待状

朝晴れていた空は、下校時間には真っ黒い曇天に変わっていた。

照明がついている教室だが、なぜかいつもより薄暗く感じる。


ギ…ギギィーンガガ~ンゴゴーーーン!!


「ん?チャイムの故障か?まぁいいか。それでは今日のホームルームを終了とする。帰れ!!」


どこか不気味なチャイムがまだ耳に残る。

担任からいつものように帰れ命令を受けて、2ーB教室の生徒達は散り散りになる。

寄り道をして帰る集団、部活に行く集団など、それぞれの放課後を過ごすが、帰宅部の俺は大概の場合、すぐに帰路につく。

昇降口に向かうため廊下を歩くが、やたらと照明がついたり消えたりして薄暗い。

それに雨が降ったわけじゃないのに、やけにジメジメして廊下が濡れている。

嫌な気分だった。


「すーずき!一緒に帰ろっ?」


廊下で満面の笑顔のめいに声をかけられた。


「俺のスピードについてこれるならな。」


毎日話しているため、特に話すことはないのだが、別に断る理由もないので冗談交じりの返事をする。



「え?私の方が足速いじゃんっ!」

「ふっ、帰宅時に俺の速度は2倍になるのさ。」

「あっはは!50m走4秒くらいですか?」

「あれ?というか、お前。部活はいいのか?たしか、全部の運動部に入ってただろ。」

「うん!私、強すぎて、みんなの練習にならないからって、基本的に大会以外は帰宅部で活動することになったんだっ!」

「そ、そうなんだ…運動部を極めすぎると、人って帰宅部になるんだな。」


人間国宝級の会話をしていると、自分の下駄箱前に到着する。


ガチャ!

ピーーーーヒャララララ!!!


「ぐわぁああーー!!」


下駄箱を開くと舌の長い狂った表情のピエロが、カラフルな動物の人形と一緒に飛び出してきた。


プーカップープーカップー!


ピエロに繋がっているバネが伸びたり縮んだりして、腰を抜かした俺を煽るかのように跳ねている。


ボトボトボトボト!


ピエロの脇から溢れ出る色とりどりの可愛い動物の人形が、床に落ちて積み重なっていく。まだ人形は流れ出てきている。。

すでに下駄箱に入る量じゃない。

パンドラの箱でも開いてしまったのか??


「プーハハハ!!鈴木の下駄箱にラブレターじゃなくてラブピエロが入ってたっ!可愛いっ!」

「全然可愛いくねーよ。。畜生。」


今日だけで二回も腰を抜かしてしまった。

結構な数の生徒が昇降口にいたため、凄く恥ずかしかった。でも、何より恥ずかしかったのは、明がケタケタ笑っているのに、男の自分が腰を抜かしてしまったことが一番恥ずかしかった。


「くっ、なんでコイツといる時に。。」

「コイツって誰だ?」


すぐに立ち上がり、顔を赤らめながらピエロを、下駄箱から引き抜こうとすると、聞き慣れない声がした。

…俺の掴んでいるピエロから聞こえた気がした。


「チッ!女王様には、そこのゴミクズみてぇな女じゃなくて、てめぇを喜ばせろって言われたんだけどな!」

「うげっ!!」


やっぱり!!下駄箱から出てきたピエロ人形がしゃべってる!!

危うくまた腰を抜かしそうになる。


「何がうげっ!だ!!雄の癖に腰抜かしやがって!!そのどーしよーもねー根性叩き直してやらぁ!!来やがれ!!」

「うわっ!なにすんだっ!どこに行くってんだ!?」


ピエロに胸ぐらを掴まれた俺はまたも驚いた。

ピエロが動いたから驚いたわけじゃない。

掴まれた握力に驚いたのだ。

人間ならざる者の力だ。

抗えないと一瞬で感じさせる凶悪で強大な力。


「四の五の言ってんじゃねー!行きゃわかる!!ヒャッララララ!!」


特異に笑うピエロの目が怪しげに光り、俺の下駄箱の中に向かって突風が吹き始める。

次第に大きくなる風の流れは、やがて俺の足をすくい上げ、下駄箱に体がへばりつく。


「ヒャッララララ!!行くぜっ!くそガキッ!!」


そして、異常な力でピエロに引き込まれた俺は、下駄箱の中に吸い込まれていった。

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