第4話 脳筋の女王

「ふふふ、面白い友達がいるのね。」


めいを見ながら高貴な女性が言う。


「ちゃんとお別れを言うことね。タックル!」


「OK!ボス!」


タックルと呼ばれる男が檻に入ってきた。

黒スーツを身にまとった屈強な男達の中でも、さらに一回り大きい身体をしている。

サングラスをかけているせいか表情が読み取れない。


ヒョイ!


タックルは、いとも簡単に俺を持ち上げた。


「お、おいおい!何すんだ!!」


腰が抜けているせいで思うように動けない。

俺を肩に担いだタックルは、ズンズンと檻の外に出て歩いていく。


「おい!明!助けてくれ!!」

「えっぐ。。鈴木の霊体が冥界に連れてかれる~!!」


明は今だに俺のことを幽霊だと思っている。。


「お前には、このゴリラみたいな男が天使に見えんのか!?」

「えっぐ…あんまり…見えない。。」

「じゃあ、俺がゴリラに連れてかれるのはなんでだ!!」

「う~ん…なんでだっ!?」


いや、俺もわからない。

ゴリラに誘拐される状況ってなんだ??

だが、これだけは言える…


「それは俺がまだ生きてるってことだ!!」

「…そっか。普通魂はゴリラじゃなくて、天使が連れて行くよねっ!!」

「そうだ!!わかったら、このゴリラ共を何とかしろ!猪女!!」


明は俺が叫ぶ前には走り出していた。


「ファック!!」


一人のゴリラが明を押し飛ばそうと手を突き出す。


「誰が猪女よっと!!」


瞬きをする間に、手を出したゴリラは空中を回転しながら舞っていた。

そして、また瞬きをすると、違うゴリラが空中を舞っていた。

瞬きをする度に空中を舞うゴリラが増えていく。


「相変わらずスッゲーな。。」


徒競走をさせたら全国1位。

合気道をさせたら免許皆伝。

肉体競技は負けなしの脳筋女。

それが猪野いののめいである。


あっという間に立っているゴリラは俺を担いでいるタックルのみとなり、明とタックルが対峙する。


「…ファイティングガール」


竜巻のような明の戦いぶりに、タックルがポツリと言葉をもらす。


「ふぁい。。?馬鹿にしないで!!」

「いや、明、別に馬鹿にしてないぞ。」


英語が苦手にも程がある。


「でーい!!問答無用!!」

「ワタシハ、強イゾ。」


気を使って日本語で話したタックルの意外な優しさで、戦いの火蓋はきられた。


「ふーーーーーん!!!」


バリバリバリ!!

全身に力を込め、発達したタックルの筋肉は、黒スーツの背中の部分を破いた。

風切り音をさせて振りかざした拳は、目にも止まらぬ速度で明に振り下ろされる。


「あなた!今日で一番大きいゴリラねっ!!」


明はまったく怖がることなく、大砲のようなパンチをフワリと躱し、空をきって伸びきったタックルの袖を摘んだ。

すると、スーツがビリビリに破れるほど捻じれ始め、大岩のような巨体が素っ裸で空中を舞った。


勝負は一方的な展開で明が制した。


「あいつに袖摘まれないように気をつけよ…」


ドッシーーーン!!!


巨漢がアスファルト道路に落ちた音がして、高貴な女性の微笑が消えた。

そして、タックルの落下音がゴングだったかのように、脳筋の明と高貴な女性が対峙した。


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