第2話 日常の死

春休みが終了し、今日は高校二年の始業式の日。

歩き慣れた通学路を気怠げな表情で歩く。


「あ〜眠いな〜。」


読み飽きた漫画を夜中まで読んでしまったせいでいつもより眠たい。


「おっはよー!」


バッシン!!


「痛っ!!」


背中を思いっきり叩かれた。

姿を見ていないが、誰が犯人かわかる。


「おい!めい!!」


振り返りながら幼馴染の名前を呼ぶ。


「おっはよー!」


振り返ると身長160cmほどの女の子が、精一杯胸をはって挨拶をしてきた。

表情は楽しげで、大きなツリ目を細めて笑っている。

長く伸びた白い犬歯が、太陽の光を跳ね返して少し眩しい。


「お前は背中を叩かないと挨拶ができないのかー?」


今もジンジンと感じる背中の痛みに苛立ち、声に力がこもる。


「できないっ!!」

「できないわけない!!」

「だって、鈴木の面白い背中を見ていると、どうしても叩きたくなっちゃうんだもん。」

「待て。中肉中背の手本みたいな俺の背中が、面白いはずないだろ。。」

「あっはは!そこが面白いんじゃんっ!それに面白い背中のほうが絶対モテるよっ!」

「え!?じゃあ!今日から女の子には背中を向けて会話しよう!」

「あっはは!背中で語るタイプだねっ!」


明とは幼い頃から、こんな内容のない会話しかしてこなかった。

コイツは馬鹿な事を口にしなければ、学年でトップクラスに可愛い女の子なのにな。

昔からスポーツをやっているため、理想的な肉体美もしているし。


その後も、明と休日の過ごし方などの会話を続けていると、学校の校門前にさしかかる。


パラパラパラパラパラ!!


校門を越えると上空から聞こえる風をきる音に気がつく。。


パラパラパラパラパラ!!!!


ヘリコプターだ。この地域では珍しい光景ではあったが、

見つけたからといって、何が起こるわけでも、テンションが上がるわけでもなかった。


「ほらっ!鈴木!ヘリコプターなんていいから、早く学校行くよっ!」


明はヘリコプターにお構いなしで、俺の背中を頭でゴリゴリと押し、

俺の重い足取りを手伝う。


パラパラパラパラパラ!!!!!!


少し風切り音が大きくなった?

また空を見上げる。


「あれっ?」


ヘリコプターが俺の真上で止まっているように見える。


ひゅ~~~ろろろ~~~ろろ!!!


ヘリコプターから何かが落ちてきた。。

落下物の影が俺と明のいる場所を覆う。


何かが落ちてくる!!!


俺は落下物に気がついていない明を咄嗟に突き飛ばし、落下物の影から追い出す。


ゴォオーゥオウー!!!


すぐそこまで落下物が近づいている音がする。

腰を抜かして動けなくなった俺は、最後に少し馬鹿っぽいけど、

気心の知れた知己を見る。

尻もちをつき、痛みで少し歪んだ表情をしている。

悲しい最後だが守ることができた可愛い友人の顔を見れて、俺は大いに満足した。


ガッシャーーーーーンン!!!!


落下物は凄まじい音をたてて着地し、コンクリート舗装を破壊した。

普通過ぎる俺が普通じゃない死を遂げるとは思ってもみなかったな。。


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