海道 その2

 海道は帝辺学院に着くなり、セキュリティゲートに激突した。


 ウーウー唸りを上げる警告音は海道の怒りを一層促進させ、力任せに破壊して音を止めた。

 次にこちらを向いて固まっている女性が目に入る。

 年は二十代くらい。大きな黒縁の眼鏡をかけており、何やら小さな包みを抱えていた。

 もちろん、そんなあれこれを今の海道の脳は認識しない。

 そこに人がいるのを見るや否や、獲物を狙う肉食獣のごとき動きで女性に襲い掛かった。

 女性は錯乱し、手に持った包みを投げてきたが、海道には何のダメージも与えられなかった。

 右手で女性の両腕を封じると、余った左手で顎を持ち上げ、無理やりに目を合わせさせる。


「どこだ!?」


 海道は怒鳴った。

 女性はすっかり怯えてしまい、そもそもが質問の体を成していない海道の言葉に、当然何も答えられなかった。

 だが、怒りに我を忘れていた海道には女性の気持ちをおもんばかることなどできない。

 女性が何も答えないことに苛立つだけである。


「俺の女を傷つけた! この学校の生徒! どこにいる!?」


 ようやく最低限の情報を提示した海道に、女性はようやく口を開く。

 しかし、ただ何も知らないと繰り返し喚き続けるだけだった。


「知らないわけあるか!! 赤い自転車に乗っていた! ここの学生証を落とした! 俺の女を傷つけた!!」


 海道も女性も、もはやまともな精神状態を保ってはいない。

 帝辺学院セキュリティゲート付近は、完全なる阿鼻叫喚あびきょうかんの地獄絵図と化していた。

 いつまで経ってもまともな答えを返してこない女性に、海道はこれ以上は無駄と悟ったのか、ついに彼女を解放した。

 それもまた、地面に叩きつけるという荒々しい方法であった。

 今の海道に何かを持たせれば、どんなものであれ破壊対象に成り得るだろう。 

 続けて、海道は目についた建物に窓をぶち破って突貫する。

 だが、そこには誰一人いない。

 帝辺学院の生徒や教職員は、海道が女性を襲っている間に避難を終えていた。


「どこだ! 出てこい!!」


 手当たり次第に教室内の机やら椅子やら黒板やら、果ては残っていた教科書・文房具に至るまで、海道は破壊しつくす。

 一階を調べ終わり、というより破壊し終え、二階にある備品も破壊しつくされようとしたとき、海道の拳はピタリと止まった。

 いかに狂気に身を預けていようとも、いやだからこそ、海道の野生の勘はいつにも増して研ぎ澄まされていた。

 自分を包囲する警備員や警察。その数や力量を感じ取ると、海道は撤退を決めた。

 二階から、やはり窓をぶち破って飛び降りると、敵の気配が薄い方へと駈け出した。

 もちろん、海道は件の生徒に復讐するのを諦めたわけではない。

 すでにここにはいないというのならば、草の根をかき分けてでも、街をひっくり返してでも見つけ出すつもりだった。

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