別府 その2

 最初は小さな女の子だったか。


 まだ物事の分別も何もつかないような、それほどに幼い子供だった。

 それでも理解できないながらも、いや、むしろ理解できないことへの理不尽さに怯え、泣きわめいていた。

 無理もない。

 いきなり誰ともしれない男に体を裂かれるなど、成人だろうが理解が及ぶはずはない。

 そんな風に思った。

 少女をそのような目に遭わせた自分自身、何が何なのか訳が分からなかったのだから。


 どうして僕はこんなことをしているのだろう?


 罪の意識のないままに犯罪を犯すというチグハグさ。

 どうやら自分は悪いことをしているらしいと、少女の悲鳴は教えてくれた。

 けれど、罰はいつまでたっても下らなかった。

 余計に自分のしたことが何なのか分からなくなった。


 二人目は打って変わって成人した男性だった。


 彼は気丈だった。泣きもしなければ怒りもしなかった。

 ありのまま受け入れ、黙って僕に体を差し出した。

 ただでさえ混沌としていた僕の心を、彼はさらに乱した。

 彼が僕を責めてくれれば話は簡単だったのに。

 どうして責めてくれなかった。僕は彼に怒りを覚えた。

 この怒りの正体もやはりよく分からなかった。

 自分の行為が罪か否か。分からないままに次が訪れた。

 僕は答えが欲しくて、再びあの行為に手を染めた。


 三人目の女性は僕に感謝していた。


 今か今かと僕に切られるときを待っているようだった。

 とても、とても喜んでいた。心の底から、喜んでいた。

 そのときだ。僕の心はついに考えることを止めた。

 答えを出すことを諦めた。

 すでに取り返しのつかないところまで僕はたどり着いていた。


 四人目も五人目も六人目も七人目も八人目も九人目も十人目も。


 同じように切った。無心で切った。

 一人目のように泣き叫ぶものもいれば。

 二人目のように、そして今の僕のように無情のものもいて。

 三人目のように喜んでいたものもいた。

 僕が殺した十人の顔が次々に浮かんだ。

 十の顔はぐにゃぐにゃと歪み、やがてそれぞれの死に際の表情を成した。

 僕の口が何事か呟くと、十の顔は弾けて消えた。

 代わりに十一人目の顔が浮かんだ。



 次は彼女か。

 キリサキマは目を開けた。

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