海道 その1
決して足が速いわけではない。海道に敵う者など地球上にも極僅かだろう。
にもかかわらず、何度も何度も視界から消える。
状況分析力とこちらの心理を読み取る力が図抜けているのだ。
どちらも海道に劣る者など地球上にも極僅かだろう。
「このくそが!!」「……このくそが!!」
驚いたことに、海道の声に重なるようにして同じ台詞が同じタイミングで聞こえてきた。
若い男の声である。
「あっちか」
海道の直観が何かを告げていた。
目標を幾度も見失う。ということは、幾度も見つけてもいるのである。
その決め手はすべて直観だった。そして、それは今度も命中した。
「見つけたぞ!」
目標はすでに豆粒ほどの大きさになっていた。
慌てて追いかけるが向こうは自転車に乗っており、さすがの海道でもこの差は詰められない。
それでも諦めず走っていると、ポロリと奴のポケットから何かが滑り落ちた。
海道は急停止した。目標の背中は完全に消えてしまう。
これがくだらないものならばみすみす取り逃がしただけとなるところだが、幸いにも落ちているそれはこれ以上ない手掛かりだった。
財布である。無造作に中を
帝辺学院、中等部の学生証である。
「帝辺学院……!」
海道は指の力だけで学生証をへし曲げる。
それから、ありったけの憎しみを財布にぶつけて背後に放り捨てる。
革の財布は二つに裂け、ビリビリに破けた紙幣とひしゃげた硬貨が散乱した。
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