その二十二 意外な展開
クレアを助けるためにソニアの悪事の証拠をつかもうと、調べだし数日が経った。
「くー、中々尻尾を掴ませないなぁ」
前髪をクルクルウザく弄り回しながら、イラついてるライネスがぼやいた。
いつもより高速なのでマジでウザイがライネスがイラつく気持ちもわかる、なにせソニアに深くかかわっている人物に会うことはできたが、どの人物も顔をそらし口をつぐむからだった。
「よほど強く口止めをされていると言う事ですね!」
「実際そうだろうね」
ニーナの言う口止めは正しいだろう、そこらの貴族なんてエレンツ侯爵家に睨まれたら終わりである。
ただこうしてる間にも、ソニア以外の水の巫女候補達は攻撃を受け続けることになる。
「兄さん!」
アルが慌てて走ってきた、心なしか顔色が悪い。慌て方からするとどうやら何か良くない事が起こったようだ。
「アル、どうしたんだい?」
僕が声を開けるとアルは泣きそうな顔になった、アルがこんなになるなんてよほどの事のようだ。
「カ、カレンが倒れたんだ……」
「な!?」
カレンというとアルのクラスの巫女候補の子だ、その子が倒れただって?
「倒れただって? 直接的な方法にでも出たのか?」
ソニアなら直接攻撃に出る事もあり得るから困る。
「いや、流石に直接的な手段じゃないが。カレンが精神的に参っちゃって……」
アルがそう言うとユリアーナが険しい顔をしながら口を開いた。
「こうなってはクレアさんとカレンさんを証人に、直接ソニアさんを訴えるべきでは?」
「それが出来れば苦労はしないよ、水の巫女候補だって所が面倒なんだよ」
ユリアーナ言いたいことは分かる、しかしそう簡単な話ではないのだ。
例え元犯罪者であったとしても、水の巫女は捕らえることは難しい、まだ候補ではあるがもしソニアが巫女になれば絶対的な権力者になりえる。
それほどまでにこの水の国での巫女は重要な存在なのだ。
「全く迷惑な話ですのね」
「ユリアーナ様の言う通り、なんであんな人が巫女候補なんですか、ほんと迷惑ですよ!」
ユリアーナとニーナは怒り心頭である。
「しかし、何故彼女のような問題児が候補になったんだろうね?」
ライネスのもっともな意見に皆がたしかにと頷く。まあ、普通に考えたらアレが候補になるのはおかしいよな。
しかし、今はそんなことは問題ではない。倒れた人間も出てきてしまったのが問題だ。
クレアも最近は笑顔が減って、学園が終わるとさっさと寮に戻るようになってしまった。
「すいません、カナード王子」
すると今度は僕の名を呼ぶ女性の声が聞こえた、僕たちは周りを見渡すと少し離れた位置に女性が立っていた、その女性はメリンダさんソニアの姉で兄のハインツの許嫁だ。
「メリンダさん? 何故ここに?」
困ったぞ、言ってしまえばメリンダさんは敵側の家の人だ。この人にバレてしまうとソニアに僕たちが嗅ぎまわってることがばれてしまう可能性が出てくる、同誤魔化す?
他の皆も僕と同じことを思ったらしく、どうしようかと全員でアイコンタクト。
メリンダさんが近づいてきた、すると……
「皆さんが私の妹の事を調べてると聞きまして」
あー! やっぱりきたー! 仕方ない平静を保って相手しよう。
僕は覚悟を決めてメリンダさんの前に出る。
「ええ、ソニアの事調べさせてもらっています。彼女には良い噂がありませんからね」
僕は覚悟を決めメリンダさんにソニアを調べてることを告げる。それを聞いたメリンダさんは少し悲しい顔をし俯いた。しかし、少しすると顔を上げ口を開いた。
「カナード王子は、自分の許嫁の事を信じようとは思わなかったのでしょうか?」
「いいえ、全く、これっぽっちも信じようとは思いません」
メリンダさんは僕の間髪入れない言葉を聞くと目を閉じて首を振った。
「そうですよね、姉である私も妹の事は信用することが出来ないのですから」
メリンダさんからは意外な言葉が出てきた。どういう事だろう? 他の皆もその言葉に驚きを隠せずにいた。妹を助けるためにここに来たと思ていたら、そんな言葉ではなくむしろその逆の言葉であったからだ。
そしてニーナが尋ねた。
「メリンダ様、それはどういうことです?」
ニーナの問いにメリンダは一息入れてから答えた。
「ある時、私は妹のメリンダが何か良からぬ企てしている事を、知ってしまいました」
「しょっちゅう、良からぬことを考えてる気もするんだけどな」
「あぁ、ボクもそう思うよ」
空気を読まずにメリンダさんの言葉に、ツッコミを入れてしまう僕とライネス。
「う……た、確かにそうかもしれません。ですが今回に関してはとても恐ろしい事だと思います」
「水の巫女関連ですね?」
「……おそらくは」
今の時期的にそれしかないよなぁ。
「良き国造りと、ソニアが言ってるのを聞いてしまったのです。姉の私が言うのもなんですが、ソニアがあのような言い回しをするときは、大体反対の意味であることが多いのです」
「そうなると『良き国』とは自分に良き国って事だな」
まさか国を乗っ取るつもりなのか?
「ちょっとお待ちになって? そうなると彼女は巫女の立場を利用して国を乗っ取るつもりですの?」
ユリアーナも僕と同じ考えのようだ、そう考えれば強引な妨害工作も頷ける。
「おそらく」
メリンダさんまで同じ考えに至ったと言う事は、本当にそんなことを考えてるようだ。
流石にそんなことをしては巫女とは言え刑はま逃れない。
「改心したと言っていたのですが、それは嘘だったと言う事です。皆さんどうか妹を止めてください、私も出来る限り協力したいと思います」
これは願っても無い話だ、メリンダさんにはうちから送った調査員の事を話、協力体制を整えたいかな。
そう思い、僕はメリンダさんにメイドを送り込んだ話をすることにした。
「な、なるほど、我が家がそんなことになっていたなんて……しかし、あの状況では疑われても仕方ありませんね。わかりました、その方々と協力します」
「ええ、ソニアがとんでもない事をしでかす前に止めましょう」
「はい、頑張りましょう」
こうして意外な協力者を得る事が出来るのであった。
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