その二十一 極悪令嬢に鉄槌を

 次の日、僕とニーナは学園内で走り回っていた。

 当然ソニアと関係のありそうな人物で、話のできそうな人物を探すためだ。まずはソニアとよく一緒にいる人物たちを聞き出す、ここで役に立つのが王子と言う立場だ。

 色々と強引に聞き出す、パワハラ? 知らんな。


 この間も僕とニーナは一緒に活動する、不謹慎だけど皆と何かをすると言う事が何故か楽しい。

 ただ初日は空振りに終わる、流石はソニア本当にこういった事には頭が回る。


「王子、今日は成果無しですね」

「まあまだ初日だ、ソニアは普段は頭悪いが悪事に関してだけは頭が回るからね。簡単には尻尾を出さないさ」


 初日は僕たちもだが、ユリアーナにライネスの方も成果は無かったようだ。

 地味にだがソニアの攻撃はクレアを蝕んでいっている、根も葉もない噂をばら撒いているのだった。


「まったく、人を使って根も葉もない噂を流すとはやる事が嫌らしい」

「ええ、まったくですわ」


 ライネスとユリアーナも噂の事は聞いてたらしい。

 僕たちが顔を合わせて話していると意外な人物が僕たちの所に来た。


「兄さんに皆さんも少しいいかな?」

「アル? どうしたんだい?」


 弟のアルファスがやってきた。


「兄さんたちが今日ソニア関係の事を調べてるのを見かけてね、俺も協力したいと思ったんだ」

「そいつは願っても無い事だけど何故だい?」

「兄さんの婚約者の事を悪く言いたくはないけど、ソニアは許せない」

「あぁ、ソニアの事は別に何と言っても構わないよ。ぶっちゃけ僕もアイツは好きになれないからね」


 弟が加わってくれるなら、下級生達にもアクションが起こしやすくなる、断る理由は無いな。


「それで何があって、僕たちに協力しようと思ったんだい?」


 僕が尋ねるとアルは少し照れたような顔をしてから真面目な顔になる。


「実は俺と同じクラスにも水の巫女候補がいてね」


 巫女候補三名もいたんだ、完全に知らない情報だ。

 アルがそう言うって事はその巫女候補に関する問題だろうね。


「あ、聞いたことありますよ。確か下級生のカレンさんでしたっけ? 男爵家のお嬢さんだったはずですね」


 ニーナは知っていたようだ。


「ああ、ニーナの言う通りその巫女候補カレンの事なんだ」

「何となく弟王子のいいたいことがわかった気がするんだ」

「あら? 偶然ですわねライネス、私もわかった気がしますわ」


 まあ、ここにきて巫女候補とソニアで分からない方がおかしいよな。

 分かるけどやはりそこはアルの口から聞くとしよう。


「で、そのカレンって子がどうしたんだい?」


 僕が先を促すとアルは頷き話し出す。


「ああ、そのカレンなんだけど。クレアさんみたいにソニアの嫌がらせを受けてるんだ」

「人をいたぶるのが純粋に好きだったソニアらしくないな、水の巫女を狙いに行ってるのか……」


 僕の呟きを聞いた、ライネスが口を開いた。


「か、カナード王子……純粋に人をいたぶるのが趣味って人としてどうなんだい?」

「クズですわね」

「はい、最低最悪のクソ野郎です!」

「兄さんの婚約者じゃなかったら、すぐに叩き切ってやるところだよ!」


 本当に人望が無いなソニア、婚約者の僕もどうやって追放しようか考えてるくらいだし仕方ないね。

 そして日に日にやつれていくクレア、見ているだけで辛くなるな。

 僕たちはクレアを励まし激励する。


「皆さん有難うございます、皆様方が味方してくれるだけでも助かります」

「何をおっしゃってるの、困った人を見捨てれるほど私達は落ちぶれてないのよ」


 力なく笑うクレアとそれを励ますユリアーナ達。

 ニーナが僕の手をぎゅっと握った。


「見てるのが辛いですね王子、早く何とかしないといけないですね」

「ああ、その通りだね。クレアのためにも、アルが言ってたカレンって子のためにも早くソニアをどうにかしよう」


 そう返し僕もニーナの手を握り返す。

 アルを加え、僕たちは明日も頑張ろうと改めて心で誓うのだった。


 ――

 ――――


「お嬢様、こちらが纏めた資料でございます」


 初老の男がうやうやしく頭を下げ、数枚の紙をソニアに渡していた。


「ボバハハ、流石ですね仕事が早い」

「恐れ入ります」


 ソニアは紙に目を通しつつ初老の男に尋ねた。


「そうだホプキンス、メリンダ姉さまの方はどうなってます?」

「メリンダ様なら大丈夫でしょう。ソニア様が水の巫女になられた後はきっと御協力してくださるかと思います」


 ホプキンスと呼ばれた男は意地の悪そうな顔でソニアの質問に答える。


「メリンダ姉さまは我が姉ながら、心配になってしまうほどのお人よしですからね」

「あぁ、そうそう。ソニア様のおっしゃっていたカホス男爵の息子の件ですが」

「ん? あぁ、私の足の裏を舐める係のボンクラですか?」


 ホプキンスの次の報告を聞き、紙から目を離しホプキンスの方を向くソニア、ニタニタとしたいやらしい表情でソニアはホプキンスに報告を促した。


「はい、カホス男爵への援助を打ち切るように指示しました所『何でもするので援助を続けてください』との色よい返事を頂くことが出来ました」

「ボバハハハハ! 愉快ですね。実際にその場にいられなかったことを残念に思います」

「ですが、これでソニア様が巫女になられた時の味方がまた増えましたな」

「良き国造りのためには仲間は多い方がいいですからね」


 二人の笑い声がこだまする。そしてソニアの部屋の扉の前で凍り付く人物がいた。


(……ソニアは何を誰と喋っているの? カホス男爵? 良き国造り? ニュアンスからして言葉の通りの意味ではないのでしょう)


 綺麗な長い金髪の女性、ソニアの姉のメリンダであった。

 彼女はソニア達の会話を聞き立ち尽くしていた、元々恐ろしかった妹が何か得体のしれない化け物のように思えていた。


(心を入れ替えたなんて言ってたけど、あれは嘘だったの?)


 部屋の中で誰かが立ち上がる音がした、メリンダははっとなり急いでドアの前から移動した。


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