その二十三 カマキリからひり出たハリガネムシ

 

 メリンダさんの協力を得られてからも、僕とニーナは情報収集を続けていた。そしてついに、ソニア側の人間で話をしてくれる人物が現れた。

 もし、これで有力な話を聞くことが出来ればとどうしても期待してしまう。

 ヒーロイ・カホスそれが今回会う人物である、男爵家の息子である。

 僕とニーナそしてアルでヒーロイに会いに行く、そして待合の場にひょろっとした青白く景気の悪そうな顔をした冴えない男性が立っていた。


「君がヒーロイ君だね?」


 僕がヒーロイに話しかけると一瞬ビクっとし背筋を無駄に伸ばしヒーロイが返事をした。


「は、ハイィー!!」

「そこまで緊張しなくていいから」

「はっ、ハイィッー!!」


 さっきより甲高い声で返事をする、ニーナとアルが後ろで笑うのをこらえている、絶対に笑うなよと目で合図を送る、しかしこのヒーロイってヤツ大丈夫なのか?


「わ、わたしはヒーロイ・カホスと申します! お会いできて光栄ですカナード王子」

「ああ、僕もだよ。今日はよろしく頼むよ」

「はい!」


 ――

 ――――


 ヒーロイから色々と話を聞く事ができたが、なんというかソニアはもはや完全に自分のために動いていた。やはりというかその第一歩が巫女になることであった。

 そして完全にそうとは言っていなかったが、どうやら本当に国の支配を目論むような感じであった。

 自分の権限で貧乏な貴族を支援する代わりに自陣営に引き込む、そして巫女になったら巫女権限と僕の王子としての立場を利用してクーデターって計画のようだ。メリンダさんの言ってた事はこの事のようだ、なーにが良き国造りだ。


「ふざけてるな」

「はい、こんな人とカナード王子が結婚なんて絶対に許せません」

「僕もアイツの計画に加担なんて御免だよ」


 アルとニーナは不愉快そうにしていた、それはそうだろう。

 なんとしてもソニアが巫女になるのは阻止したいが、こればかりは僕たちが決める事ではないのが困ったものだ。

 ただ最悪の事態を想定し動くことはできる。


「カナード王子たちはソニアをどうするおつもりですか? カナード王子はソニアの許嫁と聞いていますが?」

「ソニアだろうが何だろうが止めるさ」

「そうですか」


 ヒーロイは、僕の言葉を聞いて少しうれしそうな顔をした。


「しかし、君は何故僕たちにこんな話をしてくれるんだい? ソニアにバレでもしたら何をされるか分からないのに」

「わたしも貴族としてのプライドがあります、いくら家のためとは言え、彼女の横暴には耐えられず、なによりあのような計画を許すことが出来なかったのです」


 ヒーロイはこぶしを握り締めながらそう言った。


「よく話してくれた、知ってる範囲でいいのでソニアに賛同している貴族を教えてほしい」

「わかりました」


 ――

 ――――


「わたしが知る限りはこれくらいです」

「……なるほど、思った以上に多いね」


 ただ有力な貴族がいなかったのは、幸いだたかもしれない。


「兄さん、いまは有力貴族がいないけど思ったより面倒な事やってるね」

「ああ、ソニアの所に送ったメイド達に期待するしかないか、メリンダさんが協力してくれてるからよほどマシにはなったと思うけどね」


 そろそろ巫女選定の時が来る、僕たちに出来る事をしていくしかない。

 なんとかクレアを元気づけてその時まで耐えるしかないかもしれないが、それでも何とかしようと思う。

 僕たちはヒーロイと別れて帰路へとつこうと廊下を歩く。


「兄さんどうする? ぼやぼやしてられなくなってきたかも」

「――? 王子、あれ見てください」


 ニーナが指さす方を見る。


「ん? 紙がおちてるね」


 ニーナが紙を拾ってくる、その紙を見て驚いた顔をしていた。


「お、王子! こ、これ見てください」


 ニーナが僕に紙を手渡す、僕はその紙に書いてあることを読む、アルも気になったのか後ろからのぞき込んできた。


「凄く汚い字じゃないですか? カマキリからひり出たハリガネムシがのた打ち回って死にかけてるような文字ですよ!」

「どんな文字だよ!」


 つい、ニーナの意味が分からない文字の説明に突っ込んでしまった、しかしこの字どこかで見たことがある。


「あ、この字はソニアの字だ」

「兄さん! この手紙に書いてあるのって……貴族の名前だよ。さっきヒーロイが言ってた貴族の名前もあるぞ」


 アルが後ろから読んで僕に伝える。と、いうかこの文字がよくもまあすっと読めるものだ。これ読むのに時間かかるぞ普通。


「アル、この文字がよくすっと読めるね」

「ああ、俺も文字が汚いからね! なんとなく読めるんだ」

「そ、そうか」


 アルがいてくれて助かったよ、心の中でそう言っておこう。

 さて、名前だけが幾つか書かれてる紙を拾ったが……


「多分、物覚えの悪いソニアが協力貴族の名前を忘れないようにメモったものだ……」

「そんな大事そうなメモ落とすなんてマヌケですね」

「……」


 本当なら喜ばしいが、拾うにしてもタイミングが良すぎる。罠ではないかと勘繰ってしまう、しかしソニアはターゲットを追い詰めるには頭が回るが、それ以外にはおざなりになるからコレが本物の可能性は十分にある、何かあってもいいようにソニアの事は色々と調べてはいるが油断はできないな。

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