その十三 弟来たし

 さーて、本日の午前は終わり。

 そう、昼食の時間である、王族たるものランチも優雅に済ませないといけない。


「王子ー! ランチの時間です!」


 ニーナが食事の準備をして僕を呼んだ。


「皆さんもお待ちですよ」

「ああ、今行くよ」


 気付くとライネス、ユリアーナとはいつも一緒にいるようになってるなぁ。

 たまにクレアも一緒に僕たちとランチを食べる。

 そういえばユリアーナとライネスは従者と一緒には学園に通ってはいない。

 専属のお付きは貴族の中でも稀らしいから仕方ないか。


「あ、カナード王子。本日は御一緒させていただきますね」


 今日はクレアは僕たちとランチを食べるようだ。


「うん、クレアならいつでも歓迎だよ」

「そうですわよ! 歓迎ですわよ!」


 ユリアーナもライネスも歓迎ムードだ。

 ニーナは微妙に困った顔をしていたが、まあ仕方ないかこの二名の態度を見ればなぁ。

 そして、僕たちはランチのために中庭へと向かった、天気のいい日は大抵ここで食べている。


「いやー、今日も人が沢山いますね王子」

「カナード王子、王族権限で貸し切りに出来ませんの?」

「できてもやらないから」


 無茶苦茶言うなコイツは。


「ボクが王子の立場だったら即刻貸し切りにしますよ!」

「お前は絶対に権力を持たせたらダメなタイプだな」


 そんな会話をしていると遠くから僕を呼ぶ声が聞こえてきた。


「おーい、兄貴!」


 この声は我が弟のアルファスである。


「アル、学園では兄上とか兄さんと呼んでくれないかな?」

「おっと、そうだったすまない兄貴」

「……お前も人の話を聞かないな」

「冗談だよ、兄さん」


 あの小さかったアルファスも、もう十六か身長は僕よりも頭一個大きい。

 別に僕の身長が低いわけじゃあない、一七〇くらいはあるんだがアルファスは一八〇以上あるのだ。


「それでなんのようなんだい?」

「いやー、弁当忘れちゃってね、兄さんにたかりに来たんだよね」

「なんだそれ?」


 アルファスは王族なんだがどうしても庶民臭い部分がある……僕も人のことは言えないか。


「仕方ないじゃないか、俺の場合兄さんと違ってお付きと一緒に登校してるわけじゃないし」

「ったく、まあいいか。それじゃあ一緒に食べるか」

「お、サンキュ」


 僕とアルファスは皆の所へと向かった、そう言えばアルファスとこいつ等は初めて会うのか。


「すまないが今日は弟のアルファスも一緒していいかな?」


 僕がアルファスの事を皆に伝えると、アルファスはお辞儀をし自己紹介を始めた。


「私はカナードの弟でアルファスと申します。以後お見知りおきを」

「似合わないな」

「あははは、いやー俺もそう思うよ。と、いうことで先輩方お邪魔させていただきますね……え?」


 アルファスの視線の先にはやはりクレアがいた。

 アルファスのヤツ固まってるぞ、クレアは確かに綺麗な子ではあるがそこまで固まるか?

 アルファスに袖を引っ張られ少し皆から離れる。


「あ、あ、兄上殿」

「呼び方おかしくなってるぞ」

「あの、お綺麗なご婦人はどなたですかな?」


 言葉遣いがおかしくなるほどの衝撃だったようだ。


「クレア・アージュ。僕のクラスメイトで今回の水の巫女候補の人だよ」

「水の巫女候補……かー、美しき人かばい」


 こいつ何人だよ? もはや迷走している喋り方だ。


「とりあえず皆待ってるし行くぞ」

「サー・イエッサー!」


 壊れたアルファスを連れて僕たちは皆の場所に向かった。


「あ、改めて宜しくお願いします」

「はい、カナード王子の弟王子ですね。私はクレア・アージュといいます」

「良い名前ですね」

「フフ、ありがとうございます」


 僕も大概だがアルファスも大概だなぁ、ガチガチじゃないか。

 まあ、面白いからもう少し見ていよう。


「王子、アルファス王子ガッチガチに緊張してますよ」

「面白いから見て居ようよ」

「趣味悪いですね」


 ニーナの言う通りなんだが、あんなアルファス滅多に見られないからなあ。

 ただ、強力なライバルが来てしまったのは確かなんだよねぇ、しかし兄さんは心を鬼にしてでもアルファス、君を排除しないといけないんだ許せ。

 ただこのイベントは傍観するしかないか。


 さて、なんだかんだと食事は和気あいあいと進んでいくのであった。


「……もし、この世界がゲームでないのだったら、どれだけよかったのだろう」


 僕がそう呟くと、ニーナが話しかけてきた。


「王子はたまに凄く難しそうな顔をしますね」

「……そうかな?」


 顔に出てしまっていたか、ニーナやバカ二名にクレア、そして兄弟達との日常は生前の僕からすると新鮮であり、新しい自分になれたと思えるほどに好ましい日常だった。


「はい、王子は何かを悟ってるような。たまにそのような表情をされています」

「はは、ニーナは僕の事をよく見ているね」

「長い付き合いですもの、王子の事は分かりますよ」

「確かにもう十年の付き合いかー」


 僕がこの世界にきてもう十七年、ニーナと出会って十年経つのか、早いものだ。

 十七年もゲームでは語られない部分に触れてきたためか、色々とやりずらいなぁ。

 それでも僕だけが知る未来を回避するためにも頑張らないとね。


「そりゃ、情もわくよね」

「ん? 何のことですか?」

「はは、こっちのことさ。さて、皆食べ終わったし、そろそろ時間だから行くかな」

「わかりました」


 ガチガチになりながらもクレアと話をしていたアルファスを僕は眺めつつ戻る準備を進めた。


「よーし、そろそろ教室に戻ろう」


 僕は皆に声をかけると教室に戻ることにした。

 アルファスはあれで上手くできるのだろうか? そんな事も思いつつ。

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