その十四 クレアとソニア

 気付けばクレアが転校してきてもう三ヵ月がたっている、これは困った。

 何が困ったって? クレアとの仲が全く進展がないって事さ。

 そもそも攻略対象の一人ってのが問題だ、僕かユリアーナとクレアのエンディングじゃないと助からないが破滅の対象は三名、なんとも分の悪い賭け。

 しかも僕は自分の攻略ルートだけは未経験だってから困ったものだ。


 更に困ったことがあるとしたら、原作にはなかった部分が出てきていることだ。

 まず、ユリアーナだ彼女のゲームでの役割は、ソニアと同じようにクレアに意地悪をする役割だった。しかし実際のユリアーナはクレアに意地悪はしていない、多少ツンデレな部分があるだけの普通の少女……普通? まあ、普通かどうかは置いておくとして別に嫌な奴ではない。

 そしてライネスもだ。ゲームでは損得勘定で動く合理的なキャラであったが実際はただの変態だ。


 クレアにいたってもそれは言える。彼女は誰にでも優しく聡明で何でもそつなくこなせるのはゲームと同じなのだが、ゲームよりさらにお人よしなのだ。

 ゲームのクレアより水の巫女になることに前向きなのだ。


 そして、ソニア。コイツはダメだ、今は大人しいが中級部の時とかは本当に狡猾で自分の好奇心のためだけに数名の生徒を再起不能にまで追い込んでいた。

 その手腕はゲーム以上なのだ。


 そしてゲームの時期的には、ソニアがそろそろクレアにちょっかいをかけだす頃なのだ。

 この辺りからゲームだと、クレアは僕や僕の兄弟達と仲を進展させつつソニアをどうするかという話になっているはずなのだが……

 ひょっとすると、もう僕のゲームの知識は役に立たないのかもしれない。

 ゲームに縛られなくなった分、慎重にいかないといけないかもしれない。


「王子ー、またクレアさんを見てるんですね」


 ニーナがムスっとした顔で僕を睨んでいた、僕は彼女を本当の妹のように思っている。だからこそソニアのせいで起きる未来を回避したいのだ。

 確かに僕が不幸になるのも御免だが、それと同時に国が滅茶苦茶になってしまう未来は避けたい。

 もし、そうなればニーナもただでは済まないだろう。


「ん、あぁ。ニーナか」

「ニーナか、じゃないですよぉ!」


 ニーナがプクーと頬を膨らませる。可愛らしい表情だ。


「ニーナ、僕がこの国の未来を知ってるって言ったら信じる?」


 僕の変な質問に真剣に考えこむニーナ。


「王子なら本当に知っていても驚きませんよ」

「それってどんな反応なんだ?」

「それで王子はどんな未来を知ってるんですか?」

「んー、ソニアのヤツが天下を取ったら国が滅茶苦茶になる未来かな」


 かなり濁してニーナに返す、本当のことを言えればどれだけ楽かな。

 ニーナはいぶかしげに僕を見ている、そらそうだよねー。


「王子は婚約者のソニア様の事をどう思ってるんですか?」

「最悪だよ! 今すぐにでも婚約破棄したいね」

「そ、即答ですね」

「当然」


 当然である、嫌だと即答できない理由が見つからない。

 ソニアには人として尊敬できる部分がどこにもない。ある意味感心するレベルだ。

 クレアと比べたら『月とスッポンの糞に群がるハエの糞』それ以上の差が有るからなあ。


 ニーナとそんな会話をしていると教室の外が騒めく。

 ざわつく廊下、僕とニーナも出るとそこにはソニアとクレアが対峙していた。

 一体何事だ?


「何をしているんです?」

「ぼばははは、何をですか? 遊んでいるのです」

「遊んでいる? これがですか?」

「当然です、この方が私に遊んでほしいというのですから」


 近付くと一人の男子生徒が猿轡をつけられ手足を縛られ転がされていた、ソニアのヤツまた下級貴族イビリしてるのか。仕方ない、止めるか。


「ソニア! お前何してるんだ?」

「ボバ? おやおやカナード王子、この方が私を楽しませるというので遊んであげてるのですよ」

「不愉快な遊びだな。見て居て気分の良いものではない、さっさとやめて即刻ここから立ち去れ」

「ボバハハ、将来を誓い合った仲ですのに。いまのうちに慣れておいてくださいな」

「慣れたくはないな」


 ふざけたことをいけしゃあしゃあとほざく、本当にコイツはどうにかしないといけない。

 男子生徒の手足をほどいてやる。


「ああ、そこの貴方。あまり楽しめなかったので援助の話は無しで」

「やはりそういったことか」

「ボバハハハ、そういうことですカナード王子」


 心底楽しそうに男子生徒を見ている、こいつは幼子のように人が傷ついたりするところを見るのが好きなのだ。

 クレアとニーナがボソっと呟く。


「「……腐ってる」」


 ソニアはクレアの方を見ると。


「貴女も調子に乗らない事ですね、水の巫女候補のクレアさん」


 そう言って睨みつけてた、次に僕に向き直ると。


「カナード王子もあまり私を怒らせないでくださいね、水の巫女候補の私をね」


 そういってソニアは僕たちの前から姿を消すのであった。

 そして、これって誰かのイベント?


「カナード王子、助けてくれてありがとうございます」


 クレアが僕にお礼を言った。


「いや、いつもの事さ」

「王子、私やはりソニア様の事は好きになれません」


 ニーナとクレアが僕の所にやってきた。


「アレを好きになれる人っているのか?」


 僕がそう言うと、クレアが僕に尋ねてきた。


「失礼ですが、ソニアさんはカナード王子の婚約者なのですよね?」

「親が勝手に決めた事だよ、僕としては御免な話さ」

「そ、そうだったんですか。私はてっきり……」

「え? 僕ってそんなに趣味悪そうに見えるのかな?」


 だとしたらかなりショックだ……


「クレアさん、王子はソニアさんの事が大っ嫌いなのです。察してあげてください」

「あ、そうだったのですね。随分個性的な趣味な方だと思ってしまいまして」


 ふぐうおああああ! 超ショック! そう思われてたなんて……まさか他にもそう思ってる人がいるのだろうか? これは由々しき問題だ何か対策を考えておこう。

 そう思った本日の出来事だった。

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