第47話 帰り道

私の振り下ろした刀の軌跡から、世界は二つに斬り分けられる。その閃光は宇宙そのものを分断する。だがそれはどこか暴力的ではない、不思議と優しい光。


すぐにそれは黄金の光の粒となり銀河の靄の中に消えた。黒き混沌たる竜はその身を2つに裂かれ、跡形もなく消失していく。


最後の叫びもなく塵ひとつ残さない、完全なる消滅。後に残った静かさだけが私たちを包む。


それを見届けた私は金の粒子をまとい、黄金色の髪を翻しながらアマテラスに近づく。


「ヤミ、ヤミ!」


ヤミもアマテラスのコクピットを開く。


「ユメなんだよね、ユメ!」


私たちは手を取り合った。

ヤミの目には涙。


「本当、あなたって人は」


それ以上言葉が出てこない。

2人でコクピットに倒れ込む。


絡まり合ったまま、ヤミは息を整えてまた声を絞り出す。


「セグメントとは、大群体の意志。我々は完璧であるが故に意志が希薄だから。だからそんな中で統率する意志ある個体・・・わがままな個体が必要だった」


ヤミは堪えていた涙をついに零す。


「なるほどあなたは本当に、わがままだよ」


私も思わず笑う。


「まだだよ」


そしてシートに座り直す。

膝の上にはヤミを乗せて。


「まだまだわがまま、言い足りないわ」


コンソールを叩く。ここは一体どこなのか。目渡す限りは星の海。太陽は一体どこにあるのか。


私たちの木星はどこにあるのか。

どこが上でどこが下なのか。


「目視でわかる惑星があれば良いのだけれど」


2人の息遣いだけがコクピットに響く。

永遠にも思える静寂。


それがかえって焦りを助長する。

このまま暗い闇に永遠に彷徨う事もありえる。


ふと、私の視界の端に白いロックサイトが目に入る。一つ二つ。いやそれどころではない。これは何だ。そこで私ははっと目を見開く。


「シズルの・・・星だ」


あの時、このコクピットでシズルが教えてくれた私を導く星。あの時の配置を、私もアマテラスも覚えていた。私は機体をわずかに動かしそちらを正面に向ける。


「クエーサーか!それなら方角がわかる」


ヤミは弾かれたようにコンソールを叩く。宇宙の淵にある星、クエーサー。その波長は独特で、さらに淵にあるためどこからでも見え方が変わらない。まさに銀河の灯台。


「あの時の状況のエミュレートだ」


ヤミが打ち込んだデータに呼応して、ディスプレイに一つの道が指し示される。


「アマテラス、ありがとう」


私の髪から金の光が離れていく。マイスエミュレーターが紡いだ神話が本来の持ち主に帰っていく。


アマテラスはわずかに淡く鈍い金色をたたえる。かつての華々しい黄金はそこにはない。


「無理させてしまったね」


私はアマテラスのコンソールを優しく撫でた。アマテラスは無言でヤミの示した道を進み始める。


「さぁ、帰ろう。私達の灯台に」


ヤミもうなずく。

私達の進んだ後には、

長く緩やかな金色の道が微かに残された。

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