第41話 星詠の花嫁

「少し時間をいただきます」


光速での火星への道すがら私は後ろを見る。目線の先には追撃してくる黄金と白のシンマキナ。


「はは、姫は黄金の巨人にご執心ですな」


フラスコがまた私を笑いとばす。私は顔が赤くなるのを感じる。


「すみません。リリィをよろしく頼みます」


照れ隠しに言うが早いか、私は即座に翻ると瞬間アマテラスに槍の一閃を見舞う。


「シズル?!ユメちゃん?!」


セカイの白いリリルラが

私たちを横目で見ながら通り過ぎていく。


「セカイ、先に行ってもらっていいかな?」


ユメの淡々とした声。答える間も無く白いアルテマキナはぐんぐん距離が離れる。光速で制動できる距離はとっくに超えていた。


「ユメちゃん」

刀を振り上げながら、今度は私が話す番。


「シズル!」

お互い剣を打ち交わす。


「知っていたんでしょ、私のこと」

大きく振りかぶる刀をユメは弾いていなす。

「知っていたよ」

「その余裕が!」


お互いがお互いの隙を逃さずに切れ目の無い乱撃を繰り出す。アマテラスが一歩早い。そう思った瞬間、激しい攻撃に刃が私のコアを揺らす。


あっ、と思った時にはもう遅い。

衝撃でコアの蓋が開き、宇宙に放り出されてしまう。暗き闇に私の白いドレスが花を散らしたようにきらめいた。


「全くあなたはひどいひと」


私は宇宙を漂いながら我慢しきれずに涙を零す。ああ、こんな綺麗な夜空、見たの初めてかも。そう思った矢先だ。


見るとアマテラスのコアも開き

ユメが手を伸ばしている。


「本当は私の記憶も全て見えていたのでしょう?私すら駒に使おうとするなんて」


私はマガツの装甲を蹴り

漂いながらユメに抱きついていた。


「ごめん」


うつむくユメ。

コアが閉じる。


私は荒くなった息を整えながら

涙と一緒に笑みが溢れる。


「大丈夫です。私の大好きなユメちゃんは、そういう事をする人ですから」


ユメも涙を浮かべながら笑う。


「ありがとう」


ぎゅっと、強く私を抱きしめる。私はもがきながら指でコンソールをなぞり星を指し示した。


「ユメちゃん、覚えておいてください」


いくつかの星の座標を彼女に伝える。

「この星があなたを助けてくれます」


私はアルテマキナのディスプレイにその星をマークした。


「これは?」

彼女の問いには答えない。焦れたのかユメは珍しく私に顔を近づける。私はその唇に人差し指でキスを禁じた。


「せっかちさん。帰ってきたら、ね?」


言うと私はコアから出てマガツに帰っていく。


「今はヤミさんがいるからダメです」


私が笑顔を見せると

ユメの後ろからひょっこりとヤミが顔を出す。


「さっきから私は何を見せられているんだ?」


飄々とした物言いに思わず3人で笑う。


「さぁ。ユメちゃん。あなたならここから先のシナリオも書けますよね?」


私の問いに、塚ノ真ユメは笑みで返す。

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