第39話 フェアリーテイル

瓦礫舞う中に立ち上がるのは純白の巨人。その周囲には小さな羽が無数に舞い、意思を持っているかのように動き回る。


「静流!」


セカイの叫びに呼応するかのように、純白のアルテマキナの周囲の羽がこちらに襲いかかる。


なるほど、あの小さな羽ひとつひとつが存在を否定する刃になっているのか。


「セカイさん、悪いですね」


私は光速で急制動し距離を取りながら無線でフラスコを呼ぶ。先ほどからリリィの秘匿回線が鳴っている。


「フラスコ、一回撤退するぞ」


フラスコ機と背中を合わせる。


「その方が良いようで。何やら宮廷でもあったようですな」


フラスコも信頼できるものに連絡役を頼んでいたらしい。こちらに画像が送られてくる。


「やはりお母さまが目覚めてしまいましたか」

「如何なさいます?」


私たちは上昇しながら言葉を交わす。

あっという間に宇宙に出る。


「元老院は?」

「祈りを捧げながら真っ先に喰われたようです。8000年前に姫様のおっしゃっていた通りになりましたな」


フラスコは唾を飲む。


「文献では"悪魔に乗り移られてうわ言を"と書かれていましたが」

「お母さまへの信仰は根強いですからね。真っ向から否定など出来ようはずがありません」

「となると姫様はこの事態を?」


私は沈黙を保つ。

ここでフラスコとは

袂を分つかもしれない。


「ええ、そうです。フラスコ。率直に聞きます。あなたは竜派と姫派、どちらですか?」


私のあまりに真剣な顔に一瞬キョトンとしたあと、フラスコはいつものように快活に笑う。


「今更ですよ姫様。姫様がお母様である竜に剣を向けようとも、最後までお供するのみです」


私は安堵の表情が初めて漏れる。


「ありがとう、騎士よ」


その時やっと私たちはリリィの通信機の通信圏内に突入する。


「ひめ様!ひめ様!助けてくださいませ、宮廷が!宮廷が!」


泣き叫ぶリリィの声がコクピットに響く。背後には銃声と、何かが引き裂かれる音。何者ともつかない獣らしき声。


「リリィ!東の塔まで移動できますか。そこで落ち合いましょう」

「ひめ様、もうここもダメかもしれません。その時は」


言葉を遮り私は叫ぶ。


「諦めてはなりません。いずれ他の者も参ります。それまで耐えるのです」


私は背後を見る。

アマテラスと白いシンマキナが

私を追跡してきている。


「役者は揃ったと言えますね」


長かった道のりを振り返る。

1万年にも及ぶ私の計画も

いよいよ今日、終わりを迎える。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る