第33話 さよなら(後編)
機械で覆われた木星の地表が遠ざかる。
こちらは首都側、セントラルサイド。戦地となったバビロンとは星の反対側に位置し、ほとんどが機械のシェルターで覆われた大地。
私はその白い死人のような顔の星を見下ろす。これだけ高度を上げてもまだ大きい。ふと、星を背に有翼の影。いや、光がその羽をはためかせる。
「アマテラス」
私はつぶやく。
「どうしましたアリス様」
先導していたナイトタイプが振り向く。私はシズルだ、と訂正したかったがその名前はもはやあの人にしか呼んで欲しくない。私はナイトを無視して木星に向き直り、アルテマキナ・マガツの刀を抜く。
「先に行きなさい。挨拶を済ませてきます」
「承服しかねます。あなたは姫なのですよ?」
「プリンセスオーダーに従えないのなら騎士の意味はありません」
私はそれだけ言い残すと光速でアマテラスに斬りかかる。
「マガツ!」
「ユメちゃん」
私たちは打ち合う剣越しに言葉を交わす。
「やっぱりシズルね。何やってるのあなた!」
ヤミが後ろで声を上げているのが聞こえる。
「遅すぎるのよ、あなた達は!」
お互い光速でぶつかり合う1秒間。
周囲の空間が弾け飛ぶ。
「変だと思わなかったの?中群体しても私の思考はほとんど読めなかったのでは?」
「誰にだって言いたくない事ぐらいあるでしょ」
激しくお互いの剣が交差する。
「セグメントとしてそれで良いの?」
「私とシズルの関係の話だよ」
私はアマテラスの首を掴む。
「そう言う甘さが、私を止められないのよ!」
急上昇。
アマテラスを急速に振り回す。
「ユメちゃん、私を好きだからって木星が滅んだら軽蔑するから」
アステロイド帯の星々にアマテラスを叩きつける。
「シズル!」
「ユメ何やってる!神経接続が弱すぎる」
私はヤミの声に舌打ちすると、アマテラスの腹部を刀で横薙ぎ一閃する。コアまでは流石に切れないが相当な衝撃を与えた事が振動で私にも伝わる。
「それともユメちゃん、ヤミさんを捨てて私と来る?一緒に木星、滅ぼしちゃおうか?」
「わかるでしょ」
ユメが震える声で応える。
「私がどうしたいか」
はぁ、と私はため息をつく。もう中群体は通っていないのに、何故か彼女の考えがわかってしまう。
「それなら、その通りにしましょうか」
私はアマテラスに刀でさらに一閃を加える。アマテラスは宇宙の漆黒に血を流しながら、木星へとゆっくり落ちていった。もはやその身体は重力に抗う術はない。
「さようなら、ユメちゃん」
私は踵を返し、再び光速で火星を目指す。いつのまにかナイトタイプが随伴していた。
「よく手を出さなかった」
「はっ。信じておりました故」
「よく言う」
苦笑しながら、私は気が付かれないようにそっと涙を拭う。もう私は後ろを振り向かない。さよなら木星。私が捨てた二つ目の星。
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