第24話 いつかの姉妹(後編)

「まさか本当に完成してしまうとはねぇ」


私は整備タラップの上で手すりに

身体を預けながらそれを見下ろす。


淡く発光する金色の人形体。

アルテマキナ・アマテラス。


ジャケットの内ポケットから簡素な紙箱を一つ取り出し、中から細長い白い紙筒を引き出す。


「この星は禁煙ですよ、セカイ」


横から茶化す声。見てみるとタラップの影から姿を見せたのはヤミだ。私は火をつけながら笑って見せる。


「だからこんな誰もこない換気扇の近くまで来てるのよ」


見るとセカイの上方には基幹シャフト排気口へと通じるファンが大きくその口を開けている。吐き出された紫煙はくねりながらゆっくりとそこに吸い込まれていった。


この星は"素の人間"には生きにくい。

全てが整備されクラゲ達に都合の良いようになっている。


だが、まだ私たちニンゲンの居場所がちゃんとあるだけマシだろう。彼らは私たちの居心地の悪さを知ってか、こうして規定に違反していても大抵はお目溢しをくれもしている。


「デュアルコアか。つい昨日の事みたい」


ヤミが私のそばの手すりにもたれかかってアマテラスを見た。はるか下方では電装の取り付け工事が進められている。私は懐から灰皿を取り出して灰を一つ捨てた。


「あの時は動かなかったわ」


わたしの呟きにヤミが反論する。


「いや動いたよ。一瞬だけ、私とあなたで」


そうだな。私は苦笑しながら思い出す。ここにいるヤミはあの時のユメでもある。12歳だった私と一緒に、未完成のデュアルコアのアルテマキナ・クレーに乗り込んだあの時と。


「確かにあの時ユメはデュアルコアのアルテマキナはいつか完成させるとは言ったわ」


煙草の灰がチリチリと燃えるのを見つめていた。全て捨ててしまおうとそうわたしに思わせる。私は手すりに腕を組んで顔を埋めた。


「そんな事を約束されたら、私のマキナかと思うじゃない」


思わず口をついて出た恨み言に

ヤミは遠い目をする。


「ごめん。いろいろあったからね。この1年」


彼女の言う1年は木星の1年。ローカルの間で使う"地球の"数え年で言うなら12年に相当する。彼女が言ってるのはきっと私が10歳のシンドレアに来たばかりの頃からの話だ。


目をつぶれば浮かび上がる。

湖の湖畔、光の降り注ぐ中でワンピースをはためかせたながら走り回る白い髪の彼女と、それを追いかける黒い髪の私。


「もうきっと、2度と彼女のようにはなれない」


私はつぶやいた。

死球での探索が終わってこの星の滅亡の調査が始まるまで木星の基準で後半年。


ローカルの数え年だとあと6年だ。

私は28になりアルテマキナとの接続は

さらに難しくなるだろうと思われた。

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