第19話 王冠クラゲの夢の中

赤い空。

赤い風の吹き荒ぶこの地獄は滅んだ世界。

未来の私たちの世界と彼女は言った。


そこに堕ちていく天使が2つ。

そろそろ2人のアルテマキナの降下限界が近い。

終わりが近づいていると私が悟った時、

私はヤミを見つめる。


私と同じだが、あぁ、なんて満足そうな顔。

我慢しきれず口を開く。


「"わたし"にしてはずいぶんお喋りだったね」


ヤミは笑う


「だってこれが多分、最後だし」


そう言うのとほぼ同時に私のハールートとヤミのマールートが淡い光を放ち始める。見ると端から細胞が融合していく。


「ハールートとマールートは気がついたわね。このままでは助からない事。だからもともとの形態に戻ろうとしている」


腕と腕が、胸と胸が癒合し一つの大型の人形になろうとしている。不意に大きな衝撃音とともに激しい振動。コア同士がぶつかって癒合を開始したのだ。2人のコアは境目が溶けるように無くなり壁の向こうからヤミが飛び出してくる。


しかし途端に向こうのコアから黒い影が伸びヤミを引き剥がそうとする。


「そう、これが最後よ」


ヤミは最後の力を振り絞って私にさらに近づき、微かに私の唇に唇を重ねた。その瞬間全ての記憶が交差する。


ユメはヤミでヤミがユメ。

2人はひとつ。

2人はおなじ。

私たちは何一つ違わない。

最初から一つのことを目指していた。


私が悟ると同時に私の髪が白く輝く。

私は私の本来の姿を取り戻す。


「ヤミ!」


私は手を伸ばすがまるで届かない。


「ユメ!」


黒い影に連れ戻されながら、

黒い髪のもう1人の私、ヤミも叫ぶ。


「やっぱりハールートとマールートが選んだのはあなただったみたい」


私は叫びながら涙が流れた。


「違うよ。"ヤミ"が選ばれたんじゃないか」


私は全てを悟って泣きじゃくる。


「良いんだ。私の望みは叶ったんだから」


そう言うと、ゴトリと重い音を立ててマールートのコアの残骸はヤミを乗せて抜け落ちる。黒の大地に堕ちていく。


「望み?これがあなたの望み?」


私は俯く。

白い髪に涙の滴が光る。

外側では新しく生まれた光のマキナがなおも神々しく形態を変化させていく。


「なら、これが私の望み」


私の叫びに呼応するかの如く、光のマキナは自らの脇の組織を引きちぎり、そこに新たな腕が姿を表す。それはたくましくその手を伸ばすとヤミを乗せたコアをつかみ取った。


「バカな。組織の再形成に干渉したの?」


叫びながらコアの穴から身を乗り出すヤミ。


私はアルテマキナとさらに深くリンクする。まるで子を抱く母のように、ヤミのコアを抱きしめる。


「再び融合が始まった?ありえない、コアを二つ持ったマキナが誕生するというの?」


自らの周囲に起こった計算外の出来事にヤミは驚きをあらわにする。


「そうよ、セカイも、ヤミもご苦労様。これが私のシナリオよ」


私は新たな私のマキナの翼を開く。

そう、黄金色の光を撒き散らす

巨大な翼のマキナ。


それは死球の上空を眩く照らす

光の渦を生み出す。

まさに台風の目の中のようなそんな景色。

誰にも何も傷つけさせやしない。

お兄ちゃんも、セカイもヤミも、

そしてシズルも守れる世界を統べる力。


「いよいよ私のものになったわね」


人呼んで、これぞ"シンマキナ"なり。

私はサブコアに収まったヤミに声をかける。


「さぁ、行くわよ。滅んだ世界にね」


私たちのシンマキナは

ついに死球の大地に足をつけた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る