第20話 QED:
「私の役目は究極のアルテマキナを作り上げること。だからおそらく役目を果たした今となっては私は死んでも再生されない」
ヤミが語りかける。
こうなってしまった戸惑いと
生き残ってしまった安堵。
私に自分の計画を狂わされた
少しの悔しさを感じる。
「私がいなくなれば前通り。"元に戻れた"んだよ?」
私はシンマキナを前進させながら答える。
「違うよ。ヤミはもう生まれてしまった。この世に"いる"んだよ。だからそれは元に戻るなんて事じゃない。失うだけ」
私はアルテマキナを前進させる。
「マキナは私を積んでいるけどコントロール権はこちらにないわ。どうするつもり?」
「今のヤミの考えが流れ込んできてるんだよ。それは"そう"するよ」
赤茶けた大地。さらには厚い雲が渦巻く。そのすべてが赤く、影はひたすらに黒い。二色の世界の中に異物のように放り込まれた黄金のシンマキナは灯台を見つけた。
朽ちてはいるが私たちがいつも出撃する白い灯台そのものだ。
「やはり本当だったのか」
私は唾を飲む。
この世界は私たちの星の未来の姿、
そう認めざるを得ない。
と、不意に耳の奥で歌が聞こえる。
「まるで待ち合わせのようね」
ヤミがつぶやく。一息ついてさらに続ける。
「ユメのマキナはかつて建造されたどのマキナよりも神に近い模倣品よ。おそらく高座存在と同レベル。今まで見えてないもの、聞こえてないものが聞こえるはず」
「ぁぁ」
なるほどそれで。
私は納得する。
「歌が聞こえる」
耳を澄ます。聞いたことのないメロディ。
私はなんとなくその声の主を強く感じる。
なんだろうこの感覚は。
どこというあてもなく、
その声の方向へシンマキナを歩かせる。
ヤミが緊張しているのが伝わってくる。
そして観念したかのように話し出す。
「私がそれを観測したのはユメと分化してから11日後。おそらく私だから見つけることができた」
重い声色。
信じたくない、嘘であって欲しい。
しかしその声色は観測の結果
裏切られた事を如実に語る。
遠くに声の主が見えてくる。巨大だ。
シンマキナよりもさらに大きい。
赤い霞がかかってシルエットがみえてくる。
有翼の天使のようなそれはゆっくりとこちらを向き直る。
「"彼女"はずっと私たちのそばにいたわ。ただ私たちは神ではない。座の位が違いすぎるから見えなかっただけ」
私たちが目にしたもの。それは・・・
「わ・・・たし?」
自らの目を疑う。
そこにたたずみ、悲しげな目で私達を見下ろすのは、白い肌に白髪をたたえ、私と同じ顔をした巨大な人影。無表情で歌を歌っている。
「あなたと会わせる必要があると、そう決意したの」
ヤミの口から声が漏れる。
どうして。なんで。
私は頭の中がかき回されたような意識の混乱。
吐き気。めまい。どうして、なぜそんなことに。何度も繰り返す。目の前の人影はゆっくりとこちらに手を伸ばす。
「ユメ。しっかりして。緊急回避」
私はヤミの叫びと共に急速に跳躍。
「うああああああ!!」
叫びながら亜音速で雲の上まで突き抜ける。
私は息が荒く、未だに平静を取り戻せずにいる。
「大地につけたおかげでより正確な年代測定はできそうよ。ユメ、今は帰りましょう。私は彼女の存在だけあなたに伝えたかった」
ヤミは早口で捲し立てた。
私はジロリと彼女を睨む。
まだ息は落ち着かない。
「でもこれではっきりしたわ」
ヤミの頬を汗が伝う。
研究者としての仮説の立証。
しかしそうあって欲しくはなかった動揺。
「塚ノ真ユメ。あなたはいつかの未来に高座存在となり、この星を滅ぼすのよ」
私は目を見開き、もう一度嗚咽を漏らした。
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