第17話 星を呼ぶもの
はらりはらりと急降下。
みるみる地上が近づいて。
私たちはどこまで堕ちていくの?
「やっぱ地獄か」
私が呟くとリンクから
ノイズに混じったヤミの声。
「それはもう」
ヤミの機体のほとばしる虹光が線を引きながら甲高い駆動音と共に急速に私との距離をとる。音速の機動。からのさらに加速。無数のフェイントが光の尾を引き、もはや虹の光の軌跡は稲妻が舞っているかのようにしか見えない。
「ハールート!」
私は右手に光の刀を作り出す。
自分の存在を認める事が存在否定を否定する証明装甲に。相手の存在を否定してやる事が私の刃になる。
「それでいい!」
ヤミが高速で突撃してくる。刀同士が火花を散らす。あまりの素早さに、秒間に何発打ち合ったか分からぬほどの亜光速のヒットアンドアウェイ。
私のハールートも同レベルでの機動で対応する。いつしかアルテマキナの脚は再生していた。私は全身に力を込めさらなる加速を引き出す。
白と黒、2つの機体が落下しながらお互いを否定し自分を証明していく。その存在否定に巻き込まれた瓦礫や大地や、雲や。目には見えないが大気までも消滅、崩壊させて星を削り尽くす。
いまや嵐のような2人の世界に誰も入り込めない。その一足は地平線をリングロープのように。光の速度で星の上を、大地を破壊し尽くす。
「そこだ」
マールートがひときわ高く飛び、ハールートを大地に叩きつける。そのまま巨大な光の刃を振り下ろす。私の切り上げた刀と交差すると、行き場を失った周囲のエネルギーがバーストし閃光とともに大爆発が巻き起こる。
「これは!」
私は目を見開く。削り取られた地表の中から超巨大な白い構造物が姿を表したのだ。それは私には馴染みの深い見慣れた構造。そう“死球の蓋"とどこか似ていた。
しかしとんでもない大きさだ。それこそ"小さな天体なら入ってしまいそうなほど"だ。差し渡しで反対側が霞んで見えない。私の足元に広がるそれに構わず、なおもマールートは刀を振り下ろし続ける。
「このままだと割れるよ、ヤミ!」
私は思わず叫ぶ。
ヤミが激昂したような口調で叫び返す。
「割れる?割っているんだ!」
ひときわ力を込めて振り抜く。
私はたまらず弾き飛ばされ、隔壁に穴が開く。
眼下に穿たれた大地の裂け目から私の目に飛び込んできたのは赤い空。
「やはりそうなのか!」
疑念が確信に変わる。赤い空の向こうに、黒い球体が見える。すなわち死球だ。マールートが私の首を掴み、中へと堕ちていく。
「ヤミ?ユメちゃん!?戻って!」
セカイの通信がインカム越しに遠くに聞こえる。ノイズが徐々に強くなる。
「悪いねセカイ」
ヤミはそれに返した。
「ここからは私のシナリオだよ」
私たちは赤い空を落ちていく。
「通信途絶!」
ユイが叫ぶ。
「大丈夫です」
シズルが静かに呟く。
「ユメちゃんはまだ無事です」
セカイは笑う。
「やられたわ。これはヤミの勝ちね。さてどうするのかな?」
監視者たちの目を逃れたころ、私は呟く
「こんな入り口があったなんて」
「むしろこっちが正面玄関だよ。私たちは小さな点検用のハッチから中に入っていたに過ぎない」
瓦礫舞う死球の空を、私たちはもつれあいながら落ちていく。
「正面玄関?」
「そう、星を引きずり出すためのね」
私はキョトンとする。胸がドキドキする。
「このままじゃ帰れなくなる」
「大丈夫だ」
マールートの手がハールートの手を握る。風の音が止まない。
「ん?」
私は違和感を感じる
「星を引きずりだす?」
「そうさ。それではまずそこから話をしよう」
そう言って私をチラリと見る。
彼女の計画が終わりに近づいている安堵だろうか。安らかな顔と声。
「君たちクラゲが地球と呼んでいる、この木星の話をね」
青い小さな空は上空にわずか彼方。
下方の彼方には黒い球体。
私たちはもう戻れない道を進んでいく。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます