第10話 チョコレートスクランブル交差点
陶器でできたような白亜の美しい廊下を私は歩く。手にはたくさんのチョコレート。
壁一面の大きなガラス窓からは光が差し込み
白昼夢の中のような眩い世界。
まどろみたくなるちょっと幻想的な
不思議な空気を切り裂く
小さな囁きが聞こえた。
「ユメちゃん?」
私は名前を呼ばれてそちらを振り向くと、黒いおかっぱ髪のその人がこちらを見つめている。
「シズ・・・」
「シズル!」
私が戸惑いがちに口を開こうとするより一瞬早く、快活な声が後ろから響いてかき消す。
立ち尽くす私の傍らを、
その声の主が追い越して行く。
一瞬爽やかな風が吹いたような軽い足取り。
白い髪の散らかり気味のボブヘアーに
白いワンピース。
その2人の向こう側に見えるガラス窓に反射して見える私は、自分自身の黒髪を睨む。
ひどい顔だ。
途端に目眩にも似た衝撃と吐き気に膝をつく。
そうだ、私は誰だ?私は・・・
「塚ノ真ヤミ」
目の前の白髪の私が振り返り
私を見下し告げる。
諭すように微笑をたたえ
人差し指を唇に当てる。
私は自問自答する様に
俯いて呪詛のように唱える。
「そうだ私はユメとは違う。私は」
そこまで言いかけて
凛とした口調のシズルが遮る。
「違わないよ」
そう言いながら私に一歩駆け寄る。
「先にシズルって、呼んでくれたじゃない」
一歩、二歩、自分を確かめるようにこちらに踏み出す。
「ユメちゃん」
「私が・・・ユメ?」
「わかるよ」
彼女が私を抱きしめる。
「大丈夫」
その時、モヤがかかっていた私の頭の中で断片的だった記憶が急速に繋がっていく。夢と現実は裏返しに。そうだ。あの第七スツールでの戦闘の時、私たちは外周エレベーターから落下した。だが私のマトゥリは敵の攻撃を防いだ際に脚のアクチュエーターが既に死んでいたのだ。それで体を支えきれずに気を失った。
「じゃぁ、じゃあ貴方は誰だ?」
私は自分の黒髪を掻き上げながら
目の前の"私の顔をした人物"を睨み上げる。
それはニヤリと笑った。
「わかるでしょ?"お姉ちゃん"」
「塚ノ真・・・ヤミ!」
正解、とばかりに無言の笑みを見せる。
「もともと同じ個体なのだから、記憶操作は最低限だったとはいえ、まさかシズルに破られるなんてね」
「中身を入れ替えたのか!」
私はヤミに詰め寄ろうとするが、途端にガラスの大きな障壁が床から迫り出し2人を阻む。
「セグメント特権って便利なものね」
ガラスの向こうの白髪の少女。
ガラスに映った黒髪の私。
二つの影が交差する。
「それが狙い?」
「塚ノ真ヤミを楽しんでる?お姉ちゃん。私の世界もなかなか素敵でしょ?」
「返してよ、私の体!」
「ダメだよ。やる事があるもん」
白い髪のヤミは振り向いて歩き始める。
カツカツと足音を響かせ数歩あるいてから
また振り向いた。
「これからは、お兄ちゃんと空を駆けるのは私よ」
強い意志でそう告げると消え去っていった。
後に残されたのはシズルと私と
止まない頭痛だけだ。
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