一緒にいたい
第1話 メールと後輩
目覚ましの音に体を起こす。カーテン越しの外は、すでに明るくなっていて、人が動き出している雰囲気が伝わって来る。新しい環境のせいで、疲れが抜けないのだろうか。
――もう少し寝ていたい……。
十文字は頭を抱えてため息を吐いた。
「……もう朝かよ」
時間を確認しようと、枕元に投げ出されているスマホを取り上げて画面を見ると、メールが届いていた。
――夜中にメールを寄越すなんて誰だろう?
そういえば、親友の
「そろそろ行かないと怒られるな」
そんなことを呟きながらスマホを開いて、はったとした。
「……っ!」
驚いてスマホを落としそうになって、慌てて持ち直す。
「天沼さん……」
『夜分にごめんね。連絡しなくてすみません。元気でやっていますか? 事前に話していた通り、メールを見たり送ったりする時間もあまりありません。仕事に夢中になっているわけではないんだけど……心に余裕がないのかもしれません。愚痴みたいなメールでごめん。こちらは元気です。また会える日を楽しみにしています』
受信は深夜の3時半だ。
「こんな遅くに」
自宅なのだろうか。
それとも職場?
いらっとする気持ちがわき起こる。
「本当にバカなんだから……」
十文字はスマホをベッドに放り出すと着替えを始めた。今度会ったらがつんと言ってやらなくちゃ。イラつく気持ち任せに身支度を済ませた。
***
階段を駆け上がる。天沼のメールを見たせいで、嬉しい気持ちがある反面不安が募った。自分の勤務部屋とは反対、左の廊下に視線を向けると、秘書課のあたりは電気が煌々と着いている。
毎朝の日課だ。眺めても彼を確認することなんてできるはずなのに、必ずそちらが気になってしまうのだ。天沼はもう出勤しているのだろうか。なんだか住む世界が違う気がしてがっかりした。
「おはようございます」
軽くため息を吐いてから、振興係の扉を開けると冨田が立ち上がった。
「おはようございます」
出勤しているのは彼だけだった。
「早いね」
「十文字さん。あの企画書の案を考えたんです。みてもらえませんか?」
「もちろん。徹夜でもしたんじゃないだろうな」
「徹夜ではないですけど。かかりました……」
彼は、ほっぺを赤くして恥ずかしそうにA4の紙を一枚出す。荷物を置いてからさっそくその書類に目を通した。
「ど、どうですか。十文字さん」
「悪くないけど。この企画は前にもやったなあ。もう少しオリジナリティのあるやつを考えないと」
「はあ……」
「お前、音楽やったことあるの?」
「え……実は、吹奏楽をやっていまして」
この体型だ。運動系はやっていないこと間違いないだと思ったが。楽器か。十文字は質問を続ける。
「楽器ってなに? チューバ?」
「ああ〜。それ。顧問の先生と同じ反応です」
冨田は苦笑した。
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