第10話 混乱と告白



「こ、恋なの!? これって恋!?」


 口をパクパクとさせて彼は視線を彷徨わせていた。ある意味、面白い。これって、根っからの男好きではないってことだ。もしかして、生まれて初めて同性に恋をして、それを突き付けられて、パニックに陥っている状況ってこと?


「あわわわ……」


「あの。すっごく面白い反応なんですけど。冷静に考えてみたらどうですか」


「おれは、冷静です!」


「そうは、見えませんけどね」


「うう……なんたることだ……。そういうこと?そういうことだったのか……っ? 嘘だろう? 何、これ。しばらく女子にときめかないと思っていたのに、あんな、大柄な、犬みたいなやつにドキドキしているって、どういうことなのかと思っていたのに……っ」


 恋心を言語化されても、他人である十文字じゅうもんじには受け止めきれないと思ってしまう。


「っていうか、女性とお付き合いをしたことがあるんですか」


「あ、ありますよ! あります。一応、女性経験だってありますっ」


 ––––そんな堂々と言い切られても……。


 十文字は笑うしかない。


天沼あまぬまさん、そういう気持ちって素直になったほうがいいと思いますよ」


「な、なんだよ。知った感じじゃない」


「だって、おれ」


 そう。

 おれは……。


「おれ、男しか好きになれないんで」


「そう、男しか……って、え!? ええ?」


 天沼は十文字の告白に、口をぱくぱくさせてから、それから急に大人しくなった。


「ごめん。おれ、失礼なこと言わなかった?」


「別に。普通の反応でしょう? 同じ男しか恋愛対象にならないって、おれっておかしいのかなって、ずっと思っていましたけど、今はそうなんだって受け入れていますし」


 それに、天沼が好きだと思っている田口の恋人だって男ですよ、と言ってやりたいところだが……。さすがにそれは田口のプライバシーに影響する話だ。そこまでやる権利が十文字にはない。


「そ、そっか。そういうこともあるよね。うん。きっとあるんだ」


「ありますよ。だから、天沼さんも自分の気持ちをよく見つめなおしたほうがいいです。本当にそうなのか? いつもの好きと、その気持ちが同じなのか、そうではないのか。冷静に考えたほうがいい」


「……冷静に考えられるかな?」


「一人でできないなら、お手伝いしましょうか」


 十文字の申し出に、天沼は顔を赤くして首を振った。


「そ、そんなことまで、初対面の君に世話になるなんて、できないよ」


「そんなことないでしょう? 夜は長い。別にいいじゃないですか」


 時計の針は21時前。確かに、朝までは時間がある。そして、ここには二人きりしかない。マンションの中にいても、外は静かだということがよく分かる。

何の音もない世界にいると、どちらかが声を上げない限り、静まり返ったままで居心地が悪かった。





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