第31話 カレーを召し上がれ

 ドラゴン退治にあたり、まずはしっかりと準備をしていかなくてはならない。少しでも準備を怠れば、それは死に直結する可能性がある。僕達四人は武器屋兼防具屋にやってきた。


「いらっしゃーい! おお、ドーラじゃねえか。ひっさしぶりだなぁ」


「あ、どうも」


 エルフのおじさんにも素っ気ないドーラさん。うーん、殻にこもってる感が凄い。


「ねえねえおじさん。あたし達にピッタリの武器防具はない?」


「おっと! 良いのがあるゼェー。さあ、好きなもん買ってきな」


 僕らはとりあえずお店の品物を確認してみる。考えてみればエルフの里でお買い物できるって、すっごくレアな経験だよね。


【武器防具一覧】


 妖精の弓     450G

 ミスリルの弓   730G

 吹雪の杖     1010G

 火炎の杖     990G

 雷の杖      1000G

 熊殺しの爪    630G

 ミスリル手甲とブーツセット 1450G

 ミスリルソード  980G

 ミスリルランス  1000G

 ミスリルナイフ  880G

 ミスリルシールド 740G

 ミスリルアーマー 1200G

 ミスリルヘルム  930G

 フェアリーローブ 1600G

 アースローブ   2100G

 猫の着ぐるみ   3000G


「わああー! 変わった名前の装備ばっかりだよ!」


 ルルアはアロウザルのケーキ屋さんにいる時みたいに目を輝かせてる。僕も黙ってはいたけれど、ちょっと興奮していた。まあ、ドーラさんがむすっとした顔のままだったんだけど。ちなみに聖女様はまだハアハアしてた。


「うん。なかなか素晴らしい武具が揃ってるね。ルルアはそろそろ手甲とか、爪とか買ってみたら?」


「うん! じゃあ手甲セットを買っちゃおうかな。バリバリやっつけちゃうからね!」


「間違っても装備したまま僕を叩かないでよ。間違っても」確実に死ぬからな!


「だいじょーぶだよ! あたしそんなことしないもん」


「いつも似たようなことやってるだろ!」


「私はどれにしようか……」


 ルルアとは対照的にドーラさんは物静かに腕組みしながら思案する。ちなみにまだ聖女様はハアハアしてた。いい加減落ち着いてほしいよ。


「ドーラさんはほとんど変わらないと思うけど、強いていえば盾を新調したほうがいいんじゃない? 細かい傷がいっぱい入ってるようだから、そろそろ破損すると思う」


「そんなところまで見ていたとは。君は観察力があるな」


「ねえねえ! ナジャはこれにしなよっ」


「え、どれど……うぇ!?」


 ルルアが興奮気味に目を輝かせて持ってきたそれは、フェアリーローブと呼ばれる代物で、どういうわけか背中に妖精みたいな羽が生えちゃってる。まあそれは勿論飾りだし、ホントに妖精を見たことなんてないけど。


「絶対やだ」


「お願い! 試着だけでもして。あたしの瞼に焼きつけるから」


「そんなもん焼きつけてどうする! 僕はこれにする」


 僕が選んだのは、アースローブと呼ばれる茶色地に白が混ざったローブだ。これは物理的な攻撃を一割カットしてくれるっていう便利な効果もついてる。


「あらー。素敵なローブですわ。ナジャ様にピッタリですね」


「クラリエルは何か買わないの?」


「私は特に必要はなさそうです」


 まあ、聖女様は元々装備はしっかりしているので、今回は確かに必要なさそうだ。僕とルルアは試着を完了し、問題なさそうなので購入することにした。


「なんか一新したって感じだね! ねえねえ、似合う?」


 ルルアが身につけたミスリルの手甲とブーツが光って見える。構えをとると以前よりずっとカッコいい。


「ああ、強そうだね。似合ってる」


「えへへへ」


「コホン。君達、楽しんでいるところ悪いのだが、私も装備を一新してみたのだが……」


 ドーラさんが購入したのは、盾だけじゃなかったんだ。思いきったことをしたなぁ、なんて思って振り返った僕は目を疑う。


「えええー! ちょ、ちょっとぉ。ドーラさん、その格好は」


 ルルアがビックリするのも解る。

「あらあらあらー!」とクラリエルも驚いてる。


 彼女はまん丸フォルムの猫の着ぐるみを装備していたんだ。この人普段はお堅いけど、以前際どい水着を購入しようとしていたし、変身願望でもあるのかなぁ。なんて考えていたら、


「可愛いー!」


 次の瞬間には金髪を揺らしながら、幼馴染みが猛烈な勢いでドーラさんに抱きついてしまった。あーあ。こりゃ大変なことになっちゃうぞ。


「いだだだ! こら離せ! 離せんかぁ」


 うわー。ルルアが猫の着ぐるみに顔をスリスリさせまくってる。いろんな意味で引きつつも、とにかくドーラさんの着ぐるみだけは猛反対した。


 ◇


 準備は一通り完了し、里の宿屋で一泊したことで体力的にも万全になった。朝食を食べてから出発しようというところで、僕は一つ思いついたんだ。


 せっかくだからパーティメンバーにとっておきのカレーをご馳走しよう、と。宿屋のエルフおばさんにキッチンをお借りしてもいいかと聞いたところ、快諾してくれたので僕は朝から料理をしている。


「楽しみー! ナジャのカレーが食べれちゃうなんて。あたしすっごい幸せだよ!」


 ちょっとだけ後ろを向くと、ルルアは今か今かとテーブル前で待ちわびているようだった。ドーラさんも隣でにこやかにカレーが届くのを待っているみたい。


「うふふふ。ナジャ様のカレーをいただけるなんて。私この日のことは一生忘れませんわ」


「大袈裟だよクラリエルは。さて、できたぞー」


 テーブルに四つの皿を持っていき配り終えた時、みんなはそれぞれ異なったリアクションをした。


「あれ? このカレーって……」ルルアはなんだか目を白黒させてる。


「うむ。普通のカレーとは色が違って見えるのだが。何か赤々としているな」


 首を傾げるドーラさん。まあ、僕のカレーは特別性だからね。普通よりもちょっとだけ辛い。


「うん。ちょっと辛めにしてあるんだ。そのほうが体にいいし、何より美味しいよ」


 僕の説明を聞いて、唯一クラリエルだけがうっとりした顔でカレーを眺めてる。


「まああ。まるで何かの血をそのまま注いだようなカレーですね。美味しそうですわ」


「なんかやな表現だな! じゃあ、いただきまーす」


 僕は早速パクパクと食べ始めたんだけど、なんかルルアとドーラさんの様子がおかしい。


「どうしたの? 手が止まってるみたいだけど」


「あはは……う、うん。美味しそう……だよね」


「そうだな……とても奇抜な味がしそうだ」


「では私はいただきますよ。あ、ルルアさん」


 どういうわけかカレー入りスプーンを持った手をルルアの近くに持ってきたクラリエルは、


「私、食べちゃいますよ。ナジャさんのこと食べちゃいますよ」


「僕じゃなくてカレーだろ!」


「もう、やめてよー!」


「うふふふ。それでは」


 でも次の瞬間、思いがけないことが起こった。パクリと一口食べたクラリエルは、一瞬目を丸くしたかと思ったら、


「もぐもぐ……まあ、なんて美味しいのでしょう……んん!? うぼあー!?」


 と口から火を吹いて倒れてしまったんだ!


「クラリエルー!?」


「えええ!? ちょっとちょっと。クラリエルさん、大丈夫ー!?」


「か、回復魔法が使える者を呼んでくる!」ドーラさんが走って出て行く。


 最終的には泡を吹いて倒れてしまった聖女様は、エルフの回復魔法でも体調が改善せず寝こんでしまい、遺跡には三人で行くことになってしまった。やらかしちゃった……ごめんねクラリエル。


 僕のカレーは何かがおかしかったみたいだ。次に食べさせる時は気をつけよう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る