第30話 遺跡に住み着いた魔物
なんていうか、きっとこの美男子エルフにドーラさんは恋しているだろうなっていうのが、僕らにもありありと分かってしまう場面だった。
「お久しぶりです。しばらくお会いしておりませんでしたが、お変わりないようで。いいえ、以前よりも凛々しくなられましたね」
「ドーラ、君こそ素敵になったものだ。ところで、こちらの方々は」
「は、はぃい……あ!? そうでした。彼らは私に協力してくれる冒険者です。魔法使いナジャと武闘家ルルア、聖女クラリエルです」
とりあえず僕らはペコリと一礼する。多分この人はエルフさんの中でも、かなり偉い方なんじゃないかな。
「長老代理を任されております、シェザールです。長老は現在体調がすぐれない為、私が代わりにお話をさせていただきます。用件は何なりと」
「はい! フンフの杖を返してもらいにきました!」ルルアが元気よく手をあげた。物怖じしないところが彼女のとても良いところ。
「そうなのですシェザール様。こちらに王からの手紙もございます。杖をいただいた後、私と積もる話を……」
うーん。積極的だなぁドーラさん。意外な一面をまた見てしまった気がする。でも、どうにも浮かない顔になってしまうシェザールさんが気になった。
「そうか。王より手紙をいただいたのなら、我々としてもすぐに返したいところだが、ちょうど今そのことで困っていてね」
「あら、何かお困りごとでも?」聖女様が興味津々で尋ねる。
「実は大変なことがこの里に起こっているんだ。これから大きな戦いをしなくてはいけないだろう」
「大きな戦い? ま、まさかシェザール様。隣の森にいるドワーフ族とやり合うおつもりですか?」
「そっかー。エルフさんとドワーフさんって仲が悪いんだよね。もしかして、戦争するの?」
ルルアが不安そうに眉を下げている。でも、これにはシェザールさんは苦笑いして首を横に振った。
「ドワーフ族とは、少しずつではあるが関係が改善しているんだよ。戦いとは、我らの領地内のことだ。実はね、エルフ族ゆかりの遺跡に、大変危険な魔物が一匹住み着いてしまった」
「大変な魔物とは?」
「うん。ドラゴンロードと呼ばれる、通常のドラゴンの上位種にあたるモンスターだ。そんな化け物が突如としてこの里に現れ、遺跡を根城にしてしまったんだよ」
「え、えええ!? それって超危険な状況じゃん」
「馬鹿な!? エルフの里は幾重にも重ねた罠も、厳重な警備もあるというのに」
ドーラさんの驚きが室内に響いて、聖女も何か考え事をするように腕を組んでいた。
「我々としても突然なことで驚いてしまってね。里から離れているとはいえ、いつこちらを襲ってきてもおかしくはない。何より我々のシンボルの一つともいえる遺跡に堂々と住みつかれている。なんとしてもご退場願いたいところだが、あの遺跡はとても厄介だしね」
「く……。確かに一般的なドラゴンの上位種ともなれば、うかつに手を出すことはできませんね。私達の魔法も、遺跡では使い難い」
「やばいねー。ねえナジャ、どうする? このままじゃ杖も回収できないし、エルフさん達も心配だよ」
少ししてから、シャザールさんは少し気まずそうな顔になりつつ、テーブル前にいた僕に近づいてきた。
「突然のお願いをして申し訳ないのだが、君達は見たところ、かなり腕が立つ冒険者のようだ。正直な話、我々では返り討ちに遭うと思う。みな平然を装ってはいるが、不安で堪らない日々を過ごしている。申し訳ないのだが、ドラゴン退治をお願いできないだろうか!」
突然テーブルの上に手を置いて、長老代理は頭を下げる。これは急展開だ。
「シャ、シャザール様! 頭を、頭をお上げください!」と焦りまくってるドーラさん。
僕はしばらく黙って思案していたけど、結論なら初めから出ていた。
「うん。僕らでそいつを倒しましょう」
この一言にシェザールさんは顔を上げ、ドーラさんは口をあんぐりさせ、ルルアもまた普段どおりに飛び上がりそうになってる。まあ、そういうリアクションになるよね。一人だけ冷静だったのはクラリエルだけ。
「ナジャ様。相手はドラゴンの上位種に当たるのですよ。私達より格上にあたりますが、宜しいのですか?」
みんなが心配する気持ちは充分に分かっていた。でも、それでもなお、僕は大丈夫だと思ってる。
「うん。もしドラゴンが複数なら、これはどう考えても無理だ。でも一匹だよね? それなら、作戦次第では充分に勝てる可能性がある。シェザールさん。遺跡の地図とか、そういった資料はありますか?」
「恩に着る! ……遺跡までの地図ならあるが、遺跡の中についての地図はない。あの遺跡は、地図を作る意味がないんだよ」
「え? 意味がないって、どういうことー?」ルルアは目を丸くしてる。
「あの遺跡は入る度に地形が様変わりする、とても不思議な遺跡なんだ。全く異なる世界にワープしているという言い伝えだが、正確には解明されていない。しかしながら、最深部の宝物庫だけはいつも同じなんだ。地下三階の最深部にある」
入る度に地形が変わってしまう遺跡か。それはかなり厄介だ。僕らとしては、全く経験のない空間で戦う可能性も充分にある。
「遺跡には私も何度か足を運んだことがある。無論魔物は出現しないが、様々な仕掛けがあって、ドラゴンと戦う上で不利な状況になるかもしれない」
と、ドーラさんはドラゴンとの戦いを想像して、いささか緊張しているように呟いた。想定しきれない状況での戦いは、本来ならば避けるべきものだろう。
でも、ヴェネディオ邸での戦いにより一気に力を増した僕達ならば、きっとドラゴン相手でもいけるのではないかという気持ちが胸の奥から湧いてくる。
「確かに今回の戦いは、相当不利なものになるかもしれないね。でも、僕らは前回の戦いでかなりの力をつけた。準備さえしっかりしていれば、相手がドラゴンだって勝てるんじゃないかな。ドラゴンロードの詳細は、以前資料を読んでいてほとんど掴めている。そして、その上で勝てると見込んでいる」
改めて周りを見渡してみる。瞬発力と攻撃力が飛び抜けているルルアに、防御役として充分なドーラさん、回復面やダンジョンの罠解除など、的確なサポートを行えるクラリエルと、メンバーはしっかり揃っていた。あとは僕の落ちゲーがあれば、少し格上の相手なら問題なくいけるはず。
「どうかな? みんな、やってみないか」
僕は改めてみんなに同意を求めてみた。この作戦はきっと自分だけでは成功しないだろうし、仲間を危険に巻き込んでしまうだろう。三人が嫌がるなら、諦めるほかないと思った。
でも、ルルアはいつもの子供っぽい笑顔を浮かべ、
「ナジャがやるなら、あたしもやる! いよいよドラゴン退治かぁ。ワクワクしちゃうね!」
とガッツポーズを見せてくる。ドーラさんは勿論と言わんばかりに首を縦に振った。
「待っていてくださいシェザール様。私達が必ずや遺跡のドラゴンを仕留め、里の平和を守ってみせます」
「私も賛成です。何が起こるか解らない遺跡の中で、ケダモノに襲われるなんて。堪らないくらいハラハラしますわ」
「クラリエルはなんかズレてるけど、とにかくみんなありがとう! じゃあ、準備を始めようか」
僕はなんだか嬉しくなってしまった。ドラゴンロード退治なんて、勇者アドルフと組んでいた頃にも挑戦したことがない。否が応でも胸が熱くなってくる。シェザールさんは泣きそうな顔で頬を緩ませていた。
「ありがとう。里の者以外誰にも相談できずに困っていたんだ。私もできうる限りのサポートをさせてもらう。何かあったら遠慮なく言ってほしい。では私は会議があるので。頼んだよ、ドーラ」
と言いつつ廊下のほうへ去っていく姿を、ハートマークになった両目で見送るドーラさん。
「はい! 必ず!」
うーん、仕事というより、彼への熱意が伝わってくるんだけど。まあ、それは今回置いておいて。
「よし! じゃあ僕らは装備やアイテムを買いに行こう。基本的なところから準備していかないとね」
ドーラさんはようやく普通の状態に戻ると、
「承知した。私はほとんど準備はできていると思うが、念のため見て回るか……気まずいが。店は変わっていないだろうから、私が案内する」
と案内役を買って出た。
「うん! オッケー。今日のナジャ、いつもよりバリバリしてるね。カッコいいっ」
「なんかルルアはお気楽な感じだなぁ。大丈夫かい本当に」
「大丈夫大丈夫! じゃあ行こー!」
「ハアハア……ドラゴンに襲われちゃう……ハアハア」
「クラリエル! 大丈夫か!? なんか興奮しちゃってるけど」
聖女様の様子がおかしいけど、この人の場合気にしてもしょうがない。とにかく出発前の準備をすることになった。
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【お知らせ】
いつもお読みいただきありがとうございます。
本作ですが、明日(7/28夜)に完結する予定です。
何話か連続で投稿していきます。
当該お知らせは28日に削除します。
最後までお楽しみいただけたら幸いです!
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