第14話 みんなでやっつけよう
魔物達はとにかくアグレッシブに駆け回り、人間に噛みついたり引っ掻いたり、大きな角で突き上げたりとやりたい放題で、いつ誰かが殺されてもおかしくはなかった。
でもそんな絶望的な状況だって、一つの魔法で様変わりする。
「アップ・オフェンス!」
僕は自身や周囲で戦っている人たちに向けて、攻撃力を上昇させる魔法を放った。赤い光がゆっくりと全ての人間に降りかかる。補助魔法は使用してから効果を発揮するまで時間がかかるので、今のように自分は安全な場所にいる必要があるんだ。
落ちゲーの効果によって、普段よりも攻撃力は上昇しているはず。みんなは若干戸惑っていた様子だけど、
「な、なんだ? この光は……」
「あの魔法使いがかけてきたんだ。補助魔法だな!」
「よし! とにかくやるぞ!」
とすぐに攻撃を再開してくれた。ここから状況は変わっていく。
戦士風の男や武闘家のおじさんや、弓を持った若い女性といった面々が、ダークグリズリーやレッドサーベルタイガーを一撃で屠りさるようになった。巨体を揺らしながら何十匹と群がる魔物達は、微かな斬撃や打撃でも簡単に地面を転げ回る。
「サンダー!」
「グオオオ!」
僕は高いところから、雷魔法で巨大なバッファローに一撃を加える。怯んだ隙に連続で当て続けることで、タフが持ち味の怪物も力なく崩れ落ちた。
そういえばクラリエルさんは当初、回復魔法により治療に専念してたけど、もう負傷している人もいないので後方に下がったみたい。ちょっと回復に時間がかかっている様子だったし、やっぱりまだ冒険は不慣れな感じなのかな。
「えいえいえい!」
特に活躍していたのは、パーティの打撃担当ルルアだ。ただでさえ強かった攻撃力が、アップ・オフェンスの力で過剰に上げられていて、烈火のごとき打撃で魔物達をボッコボコにしていく。っていうか、もうまるでぬいぐるみを吹っ飛ばしているような感じだった。いいなー、あんな怪力が僕にもあったら楽しいだろうに。
僕も休んでいるわけにはいかない。周囲にいる魔物達に杖を振っていく。
「サンダー! サンダー! サンダー!」
ここはとにかく雷魔法で攻めていくことにした。スクウェア・ストーンで高所にいるおかげで、こちらは攻撃を受けることなく、相手をじっくり狙うことができる。
バッファローは大きな角で突進することができず、サーベルタイガーは自慢の俊足を生かせず、グリズリーは牙で噛みつくことができない。気がつけばほとんどの魔物はやっつけられていた。
しかしそんな中、ちょっとばかり予想外なことが起こったんだよね。僕の立っている位置の真下にある馬車から、ヨボヨボのおじいちゃんが棒を持って外に出てきちゃった。そこへグリズリーがやってきたのだから、もう焦る焦る。
「ちょ、おじいさん!? 逃げて!」
僕は急いでおじいさんを巻き込まないようにウインドウカッターを浴びせたが、怒り狂った魔物はなかなか地に突っ伏す事はなく、傷を負いつつも道連れにおじいちゃんをやる気満々だ。
こうなったらとスクウェア・ストーンから飛び降りた時だった。おじいさんが、
「ワシを舐めるな。このぉおお」
「グウウウウ!」
とへっぴり腰で棒をグリズリーの顔面にヒットさせた。
あああ、殺されてしまう。悲壮感ただよう悲鳴と共に、崩れ落ちる巨体をみて僕は唖然とした。なんて見事な返り討ちだろう。
「ほっほっほ! ワシでもやれたぞい」
「よ、良かったね。ははは」
僕のアップ・オフェンスはおじいさんにもかかっていたわけだけれど、まさかここまで効果があるなんて。落ちゲーの効果には驚かされるばかりだった。
◇
魔物達は全滅し、僕らは再出発をする為の準備を始めていた。馬車がいくつか壊されていたので、なかなかすぐには動き出せない。ルルアは重い物を運んだりすることを手伝っていた。僕は特に役に立ちそうもなかったので、ただ見守っていたのだけど。
「期待以上でしたわ。ナジャ様」
「へ? ああ……クラリエルさん」
彼女は出発した時と全く姿に変化がない、優雅なたたずまいだった。戦闘の後とは思えないなと、ついつい感心してしまう。扇子を仰ぐ姿は涼しげでいかにもお嬢様っぽい。いや聖女様だった。
「あなたの魔法によって、一気に形成が逆転したことは間違いありません。それはもう、今回の戦い一の功労者と言って差し支えない活躍でした」
「いえ。そんなことは」
こんなに美しいお姉さんに褒められると、ちょっと照れてしまう。神話の女神みたいな微笑を近くであびていると、前方の馬車を警護していた何人かがこちらにやってきた。大柄な戦士や女性の弓使い、魔法使いなどさまざま。一人ずいっと前に出てきたのは、どうやら女戦士みたいだ。耳がとんがってるところを見るとエルフらしい。髪は緑色で、白い鎧はよく磨かれて光っている。あれ、騎士にも見えるぞ?
「君が先ほど上から補助魔法をかけてくれた魔法使いだな」
パッと見た感じ、クラリエルさんとルルアの中間くらいの年齢というか、僕よりもちょっとだけ上か、もしくは同い年に見える。とはいえ、エルフって人間とは全然寿命が違うらしいから、ずっと年上なのかもしれないけど。
「君には本当に助けられた。冒険者として戦いを続けていたが、あれほど強力な補助魔法をかけられたのは初めてだ。私はドーラという。君の名前は?」
「いやいや。みんなのおかげだよ。ナジャっていうんだ」
「良い名だな。ありがとう、ナジャ」
彼女が差し出してきた右手を握ると、グッと強い力を感じた。周囲にいた冒険者の人達も、
「死ぬかと思ったのによ。お前の魔法ですげえ力が湧いてきたんだ」
「あたしの矢が一発で猛牛を貫通したのよ。こんな体験始めて」
「ありがとう。今も生きてられるのは、君のおかげかもしれない」
とか褒めてくるから、これは何かの夢かとまで思ったくらいだった。でもこれは夢ではなくて紛れもない現実なんだよね。だって、ドーラと長く握手をしていたらルルアが戻ってきて。
「ちょっとー! なんであたしが頑張って働いてるのに、ナジャは女の人とイチャイチャしてるの!? 目を離したらこれなんだからっ」
そう言いながら軽く肩をビンタしたつもりだったんだけど、完全に肩から鈍い音がした。
「ごわぁっ!? か、肩が外れたあ」
「え!? あ……ご、ごめーん。ナジャってば、ちょっと肩を怪我してるんだったね。たしか」
「ぜんっぜん怪我してなかったわ! 今怪我したんだよ、今!」
腕力を下げる魔法を覚えたいね。わりと本気で。
◇
それからというもの、移動は順調に進み一夜が明けて、僕らはとうとうベネディオ様のお屋敷に辿り着いた。
「わあああ! おっきい。ナジャ、貴族のお屋敷ってやっぱりスケールが違うね」
ルルアが僕の隣で窓を見ては驚きの声を上げている。
「うん。ちょっと緊張しちゃうなぁ」
確かに大きい屋敷だなぁ。青い屋根に白い壁の落ち着いた感じの外観は、もしかしたら百人は余裕で住めるんじゃないかってくらい広そう。三階建の豪邸を見て、ルルアはまたもため息をつく。
「いいなーいいなー! 貴族の人ってやっぱり違うね。そういえばナジャは、引っ越したりとかしないの?」
「家? うーん。どうしようかな。そういえばルルアって、普段何処で寝てるの?」
「最近はニニアーナさんのお家だよ。前は宿屋だったの」
「えー。家に泊めてもらえるくらい仲良くなってたのか。ビックリだよ」
「なんかとっても気が合うんだよね! でもね、私ホントは……」
「ん?」
「えへへ。なんでもない」
ちょっとうつむいたルルアは、少し顔が赤くなったようだった。何を言いかけたのか気になってしまう。
「本当はナジャ様と一緒に住みたい……などと言いかけたのではないですか? うふふふ」
向かい側に座っていたクラリエルさんがとんでもないことを言ってきた。ちょっとちょっと!
「はわわわ! 違う! 違うよぉー!」
「うひえええ!?」
体を向き直したルルアの右手が当たり、僕は馬車の中で飛んだ。
「ああ!? ご、ごめーん!」
僕はかたときも油断できない怪力の幼馴染みに困惑しつつも、なんとか屋敷にたどり着いたから安心していた。
庭は大きな壁に囲まれているし、そこら辺を警備役の男達がうろついているから、普段から厳重なのだろうと推測していると、馬車は正門から中へ入っていき、そのまま僕らはパーティーに参加することになったんだ。
こういうのって不慣れだから、とにかく緊張しちゃうなぁ!
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