第7話 スキルを強化してみよう

 さて、お腹を空かせたルルアに引っ張られて後回しになっちゃったけど、僕らはまだ大事な作業を済ませていない。なのでもう一度冒険者ギルドに戻ってきた。


「酒場の奥にこんなフロアがあったんだ。ねえナジャー? この道具なーに?」


「これは『スキルオーブ』っていうんだ。ここでしかスキルの強化はできないから、いつもは混んでるんだけど。今日はわりかし空いてるみたい」


 僕とルルアはバーカウンターっぽい所に並んで置いてある、魔道具スキルオーブの側にやってきた。静かにオーブに手をかざすと、自身のスキル一覧画面が表示される。


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 名前:ルルア ジョブ:武闘家

 スキル: 正拳突きLv1

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 ルルアは冒険者ギルドで依頼をこなしたことがなかったので、スキルは一つしか所持してない。今回はどれだけ伸びるか楽しみだ。

 ちなみに僕のスキル一覧はこんな感じ。


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 名前:ナジャ ジョブ:魔法使い

 スキル:ファイアボールLv15 フリーズLv10 サンダーLv10 スクウェア・ストーンLv10

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「えー! やば! あたしより沢山スキル持ってるんだね! なんか、ナジャの秘密を知っちゃった気分」


「大袈裟だよ。じゃあ早速、今回の依頼で獲得したスキルポイントで、スキルを強化してみよう。スキル名のところを指で触れてみて」


「え? うん。は……はわわわ!?」


 彼女の小さな指先が赤色のオーブに触れると、指を押している間ずっとスキルポイントが『正拳突き』に注がれていく。スキルLvが上がり50まで上昇したところで、オーブが一瞬だけ目が眩むほどの光を発する。


「きゃあ? なになに? 今の」


「新しいスキルが解放されたんだよ。スキルLvを上げればスキル自体が強化されていくんだけど、実は一定まで上げると新しいスキルを覚える場合があるんだ」


 見ればルルアのスキル一覧には、『連続蹴り』が追加されていた。スキルポイントはまだまだ振れる。なんといっても1000ポイント所持しているんだから。


「わああ。おもしろーい! じゃあ今度は連続蹴りのレベルを上げてみよっと」


「うん。それと、強いスキルほどLvをあげる時のスキルポイントがたくさん必要になるから、よく考えて上げていこう」


 隣の金髪少女は我を忘れてスキル上げに夢中になった。スキルの振り分けと言うのは、基本的にはすぐに終わる作業なんだけど、今回はいきなり1000ポイントなので時間がかかる。普通の依頼だったら平均100ポイントも貰えないからね。


「やったぁ。ねえねえナジャ! 見て見て」


 興奮気味のルルアにせっつかされてオーブを一瞥すると、僕はあっと声が出そうになる。


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 名前:ルルア

 スキル: 正拳突きLv70 連続蹴りLv55 闘気Lv10 素早さUP弱Lv10

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「スキルが合計四つになってる! 強化する前とは全然違う」


「あははは! ナジャのおかげだね」


「ルルアが頑張ったからだよ。さて、じゃあ僕も強化してみようかな」


 今度は僕の番だ。まあ特にこれを強化しないと! っていうスキルもないし、とりあえず均等に上げてみることにした。でも、10000ポイントを注ぐなんて経験は勿論初めてなわけで、どこまで強化できるのか全く予想できない。ファイアボールから順番に指でオーブをタッチしスキルを上げていくと、予想していたよりもエライことになってしまった。


「ねえ。ナジャのオーブ、さっきから光りまくってない?」


「うん。ちょっとおかしいくらい発光してる」


 あどけない顔をした幼馴染みが、そのサラサラした金髪がちょっと肩に触れるくらいの距離で僕のオーブを覗きこんでいた。少しばかり恥ずかしい。


「ナジャ……やばくない!?」


「や、やっぱりそう思う?」


 ルルアがびっくりするのも無理はない。だって、さっきまでとはまるで違う一覧になったんだから。


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 名前:ナジャ

 スキル:ファイアボールLv50 フリーズLv40 サンダーLv40 スクウェア・ストーンLv40 ウインドカッターLv30 フレイムLv30 フリージングアローLv30 ウォーターボールLv30 ライト・アローLv35 ボムLv40 アップ・オフェンスLv5 

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 うーん。ここまで一気にスキルを覚えちゃっていいんだろうか。そう思ってしまうくらいに、いきなり僕の所持スキルは増えちゃったんだ。ルルアは興奮の眼差しでずっと画面と僕を交互に見ている。


「もう完全に上級魔法使いになっちゃったね! もしかしたらURランクも近いかもっ」


「URなんてまだまだ夢だって。でも、僕は……」


 言いかけてハッとした。あんなに懲りたと思っていたのに、もう僕はふたたび成り上がることを考えている。冒険者にはそれぞれの功績に応じたランクが存在していて、ランクが高いほど待遇が上がり、挑戦できるクエストも増えていく。


 ランクは一番下からN、A、S、SR、SSR、URという順番で、URは千年以上続く冒険者の歴史の中でもたった四人しか存在しない、英雄的存在とも言えるランクなんだ。


「ナジャはいつかURランクの冒険者になるんでしょ? 昔あたしに言ってたよね」


「……なれるかな。追放されちゃうくらいダメだったのにさ」


「ううん! なれるよ。あたしは信じてる! 一緒にがんばろーよ」


 体ごと向き直って、ルルアは僕の両手をグッと掴んでくる。


「ルルア……」


 こんな奴を信じてくれるなんて。僕は心の底から嬉しい気持ちになったと同時に、一つだけ伝えなくてはいけないことができた。


「え? どうしたのナジャ。なんか改まっちゃって。! もしかして……」


 ルルアの頬が桃みたいに赤くなってきた。僕は静かに囁く。


「そろそろ離してくれないと。……骨……折れちゃうよ」


「へ? ほね?」


「そう。骨が、ボーンが……あだだだだ!」


「あ! ご、ごめーん!」


 慌てつつ馬鹿力幼馴染みは手をパッと離したものの、けっこうな勢いでミシミシ骨がいっちゃったので、まあ治療が必要だと思う。


「今回の依頼でまた強くなったな。頼むから仲間を破壊しないでくれよ」


「するわけないじゃん! あたしをなんだと思ってるわけ?」


「熊かライオンか」


「ひどーい! 女子に向かっていう言葉か。エンジェルかフェアリーの間違いでしょ」


「うーん。いろいろ補正されちゃったね。あ、腕力と言えば近いのはゴ、」


「ゴ? なーに。その後に続く単語を言ってみて」


 ゴゴゴゴゴ……と怒りのオーラが渦巻くのを感じる。ヤバイ!


「なんでもない! 今日のところは解散!」


「あ、ちょっと! 待ってよー!」


 危ない危ない。ゴリラなんて言ったらこの若さで棺桶に入ることになりそうだ。僕は走って逃げつつ冒険者ギルドの入り口から飛び出した。今までの憂鬱な気分が吹き飛び、心の中に新しい風が吹き込んでくるみたいだった。


 ところが。そんな傷心から立ち直ったばかりなのに、災難はすぐに訪れたりする。ギルドから出てなおも追いかけっこを続けようとするルルアから逃げていると、レンガ通りの角を曲がったところで大きな何かにぶつかった。


「うぶ!?」


 思いきりぶつかったそれは、何とも言えない柔らかさがあって、ぼよーんと僕を吹っ飛ばしたのだ。


「ナジャ! 大丈夫ー?」


 勢いよく飛んだところを、どうやらルルアがキャッチしてくれたらしい。


「あ、うん大丈……ぶ」


 言いかけて口が固まってしまった。正面には元パーティの仲間である、女戦士ダクマリーがいたからだ。実は彼女の胸部に吹き飛ばされていたというわけ。


「ああん、どっかで見た冴えねえツラだと思ったら、ナジャじゃねえかよ」


 褐色の肌をした表情のない女戦士の背後から、今一番会いたくない男が姿を現してきた。

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