第6話 報酬とLvUP

 僕らは村長のお家にたどり着くなり報告した。ハイリザードマンを討伐したことを告げると、彼はぶったまげたと言わんばかりの顔で驚きまくってた。


 ここには夜中だけど結構な数の村人が集まってて、どうやら一部始終を見ていた方もいたらしい。あーあ、少しは助けてくれても良かったのに……なんて思いつつ、普通に考えたら無理だったろうなとも考える。


「それはそれは……すまねえことをした! ワシはてっきり、凶暴な狼か何かだと思っとったんだが。しかし、リザードマンの上級種をやっつけるとは、お主らもしや名うての冒険者か!?」


「いえ。まだ全然。俺もルルアも低ランクですし」


「ほほー! 期待の新人どころではないわい。とにかく追加で謝礼金も払わせておくれ」


 そう言うと村長はすぐに袋いっぱいのお金を渡してきた。気前がいいと言うか、ちょっとこっちが気まずくなっちゃうくらいお金が入ってそうだ。


「ありがとー村長。まあ、あたし達頑張ったんだから当然だよね」


 えへん! とばかりに胸を張るルルアの姿が、何となく小さかった頃とダブる。なんか、人ってあんまり変わらないのかもね。でも胸は以前よりずっと膨らん……とか考えていたら、ルルアの顔が真っ赤になってた。


「ちょっとナジャ! 今、あたしの変なところじっと見てなかった? 視線が何だか下だったけど」


「え!? ううん別に。じゃあ、僕らは村の宿屋に行きますので、この辺りで……」


 図星だったのでちょっとドギマギした。村長はちょっと慌てた様子で、背を向けて玄関から出る僕らを引き止めてくる。


「あ、ちょっと待ってくれ! アンタ魔法使いさんだろ? いいもんがあったんだよ。お礼にこいつもやるさぁ」


 村長の奥さんがのんびりとした足取りで持ってきたそれは、どうやら木製の杖みたいだ。先端が渦巻きみたいになってて、中に青い宝石が埋め込まれていた。


「これはなかなか良い杖らしいぞ。魔法使いの杖っていう、そのまんまなモンだけど。以前やってきた冒険者さんが、いらないからくれたんだよ。お前さんにやる」


「え? 貰っちゃっていいんですか。これけっこう高価なんじゃ」


「いいんだいいんだ。どうせ誰も使えねんだ。ワシはお前さん達が気にいったんだよ。ありがとうな」


「村長さん太っ腹じゃん! ありがとっ」


 僕らはお互いにお礼をしながら別れを告げ、次の日にアロウザルへ帰った。馬車の中でのどかな景色を眺めつつ、無事に帰れたことに胸を撫で下ろしていると、隣に座るルルアがひっきりなしに話しかけてくる。初めて依頼をクリアして興奮していたんだろう。


 そうそう。僕も冒険者になりたての頃はこんな感じだったかも。たった一年前なのに、何だか随分昔に感じられる記憶だった。


 ◇


 依頼を報告しに冒険者ギルドに戻ると、昨日受付をしていたモヒカンおじさんがいた。


 依頼を終えた冒険者は必ずギルドの受付で報酬を貰い、同時に魔道具の『クエストオーブ』から経験値ポイント、スキルポイントを付与されるという仕組みになってる。モンスターを倒した際に経験値は貰えるけど、依頼をクリアすれば追加で手に入るんだ。


 クエストオーブに冒険者カードをかざすことで、本当に依頼を達成したのかが解るらしい。不正はできないように作られてるって凄い。


 だから僕たちは、魔道具の鑑定が終わるまで待っていたんだけど、なんか途中でおじさんがワナワナ震えだした。


「おいおい。嘘だろう……? お前ら、あのハイリザードマンを倒したっていうのかよ。それも、たった二人で?」


「あ、えーとね。そのことなんだけど。あたしはサポートしたような感じかなぁ。やっつけたのはナジャなの」


「え? いやいや、ルルアこそ、うわ!?」


 言いかけて僕は思わず体を後ろにのけ反らせる。凄い顔でおじさんが受付カウンターから乗り出して、こっちを覗き込んできたからだった。


「ナジャ。お前そんなにヤバイ奴だったのかよ! アドルフのパーティにいた時は、全然目立たなかったのに」


「あはは。大したことないよ。それより、報酬」


「お、おう! これが1000Gだ」


「やったーっ。後で山分けだね! あ、そうだ経験値とスキルは?」


【武闘家ルルアに経験値1000、スキルポイント1000を付与します】


「ひゃあ!?」


 オーブから声がして、ビクッとルルアは飛び上がった。苦笑する僕もはじめの頃は、この突然の声にビックリしていたんだ。


「お? さては依頼をこなしたの初めてだな嬢ちゃん。どうだ? 強くなった感じするだろ?」


「え。う、うん! なんか以前よりも力が漲ってくる感じ。何Lvくらい上がったのかな」


「ちょっと見てみようか? 僕も久しぶりに確認したいし」


 冒険者にはそれぞれ、強さを表すステータス表示というものがある。冒険者ギルドにあるオーブか、または特殊なスキルを持っていなくては確認することができない。でも、大体にして経験値が増えても、なかなか強くなれないわけだけど。


 そんなことを考えていた時だった。


【ギフト『落ちゲー』の効果により、ポイントボーナスが発生! 魔法使いナジャに経験値10000、スキルポイント10000が付与されます】


「「「え!?」」」


 この追加コールには、僕を含めて三人全員がキョトンとしてしまった。


「な、なになに? ナジャの時だけボーナスが何とかって言ってたけど」


「長く受付やってるけど、こんなことセリフは初めてだぞ! って言うか、あり得ないぐらい経験値とスキルもらってないか!?」


「そういえば……ギフトを使ってる時、ポイントボーナスとかって声が聞こえたんだけど。ちょ、ちょっとステータスを確認してみよう」


 見るからにドギマギしているルルアが白い掌をオーブにかざすと、オレンジ色の光と共に文字と数字が浮かび上がってくる。


 名前:ルルア Lv 19(+10)

 肩書き:駆け出し冒険者

 冒険者ランク:N

 体力:579/579

 魔力:48/48

 物理攻撃力:225

 魔法攻撃力:0

 防御力:35

 素早さ:74

 運:53

 ギフト:攻撃回数増加Lv1


「わああ。やったー! あたし滅茶苦茶強くなった!」


 ルルアは今にも叫びそうなくらい喜びいっぱいの笑顔になり、右拳を突き上げた。


「うん。ハイリザードマンを倒したことで、ルルアは急成長したみたいだね」


「じゃあナジャは!?」


 続いて、今度は僕がオーブに手をかざした。モヒカンおじさんとルルアが食い入るように画面を覗きこんできた。


 名前:ナジャ Lv 38(+20)

 肩書き:落ちゲー初心者

 冒険者ランク:A

 体力:982/982

 魔力:1230/1230

 物理攻撃力:31

 魔法攻撃力:661

 防御力:124

 素早さ:136

 運:223

 ギフト:落ちゲーLv1


「おいおいー!? どうなってんだぁ!」


「あわわわ! 凄いー! どうしてナジャは20レベルも上っちゃってるの!? あたしよりずっと強いよっ」


「わ、解らない。何でだろ」


 もう完全に変な汗をかいちゃってる自分がいた。どうなってんの? なんで? そして考えているうちに、一つだけ思い当たる節があったことに気がついたんだ。


「思い出した! あの『二連鎖』とかいうのが成功した時に、クリアポイント増加って声がしてた!」


「じゃ、じゃあ。ナジャがその『二連鎖』っていうので魔物をやっつけたら、経験値とスキルポイントもいっぱい貰えちゃうってこと? 凄いじゃん!」


 まるで自分のことみたいにキラキラした笑顔になったルルアの顔が、普段よりも近かったから少しだけ照れてしまう。


「あ……ご、ごめん」


 ルルアも察したのか、すぐに距離を置いたけど、なんか恥ずかしそうなままだった。受付のおじさんはすこぶる上機嫌な顔になって、豪快に笑い出したから、また少しだけびっくりする。


「ガッハッハッハ! なんか知らねえけどよ、とにかく今日はゆっくり休め。また仕事貰いに来いよ。楽しみに待ってるぜ」


「うん。絶対また来るよ、おじさん! ナジャ。ちょっとカフェ巡りに付き合ってよ」


 あれ? おかしいな。今回だけなはずだったけど。なし崩し的に街のカフェ巡りにまで付き合うことになっちゃったぞ。


 とにかく今回のことがきっかけで、僕はまた冒険者として頑張っていこう、という気持ちを取り戻していった。それは消えかけたように見えた夢が、まだ掴めるかもしれないっていう微かな希望を見出したからなのかも。


 いつの間にか、アドルフに追放されてしまった心の傷は、ちょっとずつ塞がっていったんだ。

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