わたしのこれは、ただの好奇心だった。
「おいくらですか」
そう訊くと、
「お高いですよ」
その人は言った。
「その子はひどく気難しくてね、途中で投げ出さないかい? たかが石ころだとでも思っていたら容赦しないよ」
刺された図星に目を逸らす。大丈夫です、なんて軽く言えなかった。
わたしのこれは、ただの好奇心だった。
「追い返して良かったんですか」
「良いのだよ、本当の馬鹿野郎とはね、あそこで軽口叩いて平気で持っていく奴のことを言うのだから」
「あのお客さん、また来るんですかね」
「来るとも。それまでこの子はお預けだ」
「すみません! この間の、黄鉄鉱、まだありますか!」
「やあ、君かい」
その人はまるで待っていたと言うように小さな木箱を取り出した。
「調べました、黄鉄鉱は鉄よりも硬くて、けれど、湿気に弱くて、脆くて、繊細だって、だから――大切にします!」
自分でも驚くほど拙い言葉だった。伝わっただろうか。
「うん、上出来だ」
その人は嬉しそうに微笑んだ。
「酸化するとまた別の鉱物に成ってしまうからね、ケースと一緒に乾燥剤も入れておきなさい」
……待っていてくれたのだろうか。
「……はい!」
一生、大切にしよう。
心からそう思った。
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