はらりと自分の髪が舞う。

「恋が一体何なのか、考えたことはある?」

 行きつけの美容院の、いつものお兄さんが片手間に話し出した。

「恋っていう感情を司るのは脳なんだよ。脳内の報酬系神経を刺激して多幸感が生まれる。の多幸感はドラッグを使用した時と同じ効果があるなんて言われててね」

 はらりと自分の髪が舞う。

「言葉通り『恋は盲目』だ。その人を目の前にすると物事を判断する部分と社会性を司る部分の機能が低下する。社会的な判断能力が飛んでしまうんだって……一番身近で依存性の高いドラッグ。最良の解決策は――恋に落ちないことだね」

 はらりと自分の髪が舞う。

「君は恋をしているかい?」

 お兄さんは訊いた。

 私は首を横に振った。

「そうか、それは良かった。――はい、できたよ」

 耳元で声がする。

 自分の顔よりも先に、彼が身に付けている赤いミサンガに目を惹かれた。

「随分素敵だね、またおいで」

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