私の初恋は、額縁の中にある。

 私の初恋は、額縁の中にある。


◇  ◇  ◇


 彼は何者にも侵されない。

 彼は何者にも屈しない。


 彼の魅せる夢は紛れもない現実で、確かな幻覚だった。

 紡ぐ言葉の全てに彼が宿り、観客の腕を自ら引いて古の物語へと誘う。

 彼が信じよと言えば全てを信じた。


「世界は均一だ」


「それ以上も以下もない。万物を愛し、主に祈りを捧げ、罪深きを赦せば願いも叶えられよう。愛せ、全てを」


◇  ◇  ◇


 カチリとテープが止まり、初めに巻き戻った。


『世界は均一だ』


 そうして彼の言葉が流れる。

 全てを浄化し、満ち足りたような白の空間。

 あの日、あの公演で彼は死んだ。

 偉大なる道化師であった彼は公演中の事故によって敢え無くなってしまった。

 彼の遺体は額縁に収められ、美術館で展示されている。


『愛せ、全てを』


 私の初恋は、額縁の中にある。

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