泡沫挿話集

喜岡せん

手の平サイズの木箱を取り出して笑った。

「友達が明日、誕生日なんです。何を渡したらいいか悩んでいて」

「あら、嬉しい。それでわたしの店に来たの?」

 店員さんはそう言うと、子供のように無邪気に笑った。

「そのお友達ってどんな方? とても優しい子? 明るくて可愛い子? それとも物静かで人見知り?」

「とても大好きな子です。


一生懸命で頑張り屋で、それでいてとても危なっかしくて。その子がいつまでも元気でいてくれて、ずっと友達でいられたらいいなぁって」


「そう――祈りね」


 店員さんは手の平サイズの木箱を取り出して笑った。

「それじゃあペンダントにしましょう」

 木箱の中に入っていたのはひとつの小瓶だった。

「昔から首飾りは相手の無事や幸せを祈るという意味でプレゼントされていたのよ。ねえ、昔っていつからだと思う?」

「昔……? えっと、江戸時代、とか」

「残念、旧石器時代まで遡るわ。それだけ大昔から、人々は災いから大切な人を守りたいって願っていたのよ。


そのお友達を大切にしてあげて」


 流れるように作業していた店員さんは不意にこちらを見上げて、そうして大人びた表情で微笑んだ。

「同封しているのはカランコエのドライフラワーよ。気になるなら調べてみて。お代は要らない……これはわたしの押し付けだもの。あなたがた二人に幸あらんことを」


【カランコエ】

 『幸福を告げる』『たくさんの小さな思い出』『あなたを守る』

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