それでも生きていく

 仕事以外で、自分がああしたいこうしたいとか全然言わないコーヤが海に行きたいって言い出した。

 福引でチケットで乗った船が沈没して死ぬかと思ったけど、コーヤの左腕を骨折した事以外は特に怖い事は起きず、無事家に帰れた。


「なんであの時外に出たん?」

「『今度』こそ一緒に死にたかっちゃうの?」


 ハッと振り返った男の顔が歪んだ。それは怒りでも図星でもなく、酷い事を言われて、傷ついた表情だった。


「そんな事、しないっす」


 大層困ったような様子で、外は危ないから『今度』こそ安全な所に連れて帰って、一緒にいてほしかっただけで……。一回りも下の子供に必死に弁解する様は、滑稽を通り越して可哀想な気もした。


「今日は一緒に寝てもええよ」


 そう言うと、パッと明るい表情になる。腕力も体力も人の数倍あって、頭だって悪くないだろう。黙ってればカッコイイと褒められる顔だし。色んな物を持っているのに、空っぽな大人。その中に自分がいる事が、何だか嬉しかった。

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