第4話 続・混同された人々
淡々と絢乃は続ける。
「お母さんさ、人にお姉ちゃんの職業をいう時、名前を言わずにこう言ってたらしいのよ」
絢乃はそういうとほう、と溜息をついた。
「うちの娘、マンガ家やってるって」
「ああ、それで……」
「それが私の昔の同級生の誰かの耳に入って、同窓会で噂になったらしいのよね。そして、○○さんの耳にはいった、と。伝聞が引き起こした事よ。私、中学時代は友達らしい友達がいなかったから、私に姉がいるって知らないか忘れてる人が殆どだったらしいし」
絢乃は麦茶の入ったコップを口につけると続けた。カランと氷が鳴る。
「問題はその後よ」
「その後とは?」
「イリーナさんと私が間違えられたこと」
「あそっか、それだ」
「漫画家って会社の事務とか営業とか、店員さんと違って、珍しい職種でしょ?そんな職業についている人が、別に大きい市でもない同じ市内で二人、近くに住んでたから今度はお姉ちゃんと間違われたままの私が、イリーナさんに間違えられたのよ」
「でも、絢乃とイリーナさんの共通点って性別くらいじゃない?イリーナさんて美術雑誌のインタビューとかで写真出てるし、外見が違うって分かるでしょ?」
「○○さんが言うには、私が正体を隠すために、美人を代理にして写真を撮らせたってことになってた。そこまでしないって説明しても、あんたの親が自分で漫画家やってるって話しただろの一点張りで」
「なんだそりゃ」
「こんな形でツケを払う事になるとは思わなかったわよ」
「……ツケ?」
「中学時代のね」
絢乃は暗い目をしてた。
「私と○○さんてクラスのリーダーに気に入られるためにありとあらゆる媚を売ってたのよ。孤立するのは悪いことだって思い込んでたから。実際、友達のいない子が先生にまで馬鹿にされるってこともあったし。スクールカーストの最下層に行くくらいなら、他人をコケにしてもグループ行動をしなきゃって思ってた。その結果、私と○○さんはリーダー格の子に取り入るためにお互い争ったのよ。醜かったな。私もあの人も」
絢乃はそこまで言うと、再び麦茶を飲んだ。
「ま、私が負けたけどね」
ポツンというと絢乃はコップの氷を噛み砕いた。なんとなく、噛み砕きたいのは自分自身の過去なんじゃないかと思った。
「そうなのか」
私もポツンと答えた。妹が引きこもり始めたのは中学三年生の頃だ。私は受験など将来の不安からだと思っていた。
「負ける前の悪あがきで○○さんを直接的に侮辱することもあったから、○○さんは私が何年も引きこもりをしていると聞いて、きっと嬉しかったと思う。あの人、自分を棚に上げる所があるから。スクールカーストの下の方でも私がさらに下にいるから安心できたんだと思う」
「いや、だってもう中学生じゃないのにスクールカーストなんて今更気にする?」
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