第2話 ケンカ腰の某さん
ただならぬ雰囲気を感じて、マンションの一階の窓を隠す背の高い平べったく茂った生け垣に身を隠して、私は耳をそばだてた。
「○○さん、突然そんな訳の分からないこと言われたって困るんだけど」
相手ほどではなくても、腹を立てていると分かる妹の声が聞こえてきた。○○さんというのが相手の名前なのだろう。
「私、全部ぶちまけてやるから。注目を浴びたいんだか同情を引きたいんだか知らないけど、障碍があるって嘘を言ってるってこと。どこがが足が不自由なのよ。杖も何も使ってないじゃない」
「だから、私そもそもそんな事言ってないってば」
私も妹に同意だった。妹は足に障碍があるなんて言った事は一度もない。どうも、○○さんがなんかカン違いしているらしい。
「私、絢乃が許せない。人の事を不幸にしておいてイケメンと結婚を前提に同棲中なんて。あんたはね、中学の時沢山の人を不幸にしたのよ。でも絢乃は不幸にな引きこもりになった。だから今まで黙ってあげたのに。なんで幸せになるのよ。人間の屑のくせに!」
「そんな風に他人を不幸にしたのは○○さんだって同じじゃない。私の事そこまで言えるほど清廉潔白じゃないでしょ?それに私は男の人と同棲なんてしてないってば」
私はそこまで聞くとおや?と思った。
足に障碍があって、イケメン男性と婚約状態で同棲?どっかで聞いたな……。ああそうだ。如月イリーナさんのことだ。同じ市の比較的近くにあるマンションに住んでいるらしいという、人気少女漫画家だ。○○さんの中では、妹の絢乃がイリーナさんってことになっているらしい。
二人の言い争いを止めなければ、と思った時に捨て台詞を吐いて、○○さんは去って行った。
「アンタにふさわしい人生にしてやるわよ!全部バラしてやる!」
そういうと、○○さんは私が立っているのとは反対方向に去って行った。
一呼吸おいて、私は絢乃の前に立った。
「ねえ、あの、大丈夫?」
「ああ、いたのか」
むすっとした表情のまま絢乃は私の顔を見た。手にはスーパーの買い物袋を提げている。買い物帰りと見た。
「おかえりなさい」
「お、おう」
路上で少し沈黙する姉妹。絢乃が口を開く。
「じゃ、部屋に戻ろう」
「お、おう」
エレベーターの中でもなんとなく話しづらくて黙っていた。ずーっと黙って自宅部屋の前のドアまで歩き、絢乃が合鍵を使って開ける。玄関の中に入ってドアを閉める。
私は話を切り出した。
「あの○○さんて人、絢乃を如月イリーナさんだと思ってるんじゃない?」
「だろうね」
あっさりと絢乃は答えた。
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