“満月に照らされた夜の海。
打ち寄せる波が飛沫を上げては崖に跳ね返っている”
なんて美しい文でしょう。
初めのこの一行が、すとんと胸に落ちてきました。
ミステリーは、殺人に代表される暴力や、裏切りや嘘などの「人間の暗黒面」を見せる物語でもあります。
しかしこの作品は、その汚さを全く汚いと感じないんです。
砂に書いた文字を波が洗ってゆくように、さらりと文章が清めていく。
だからずっと、どこか超然としていて、潤っていて、透明な感じ。
(漠然とした感想でごめんなさい)
文章の美しさや展開の良さに加え、
登場人物の個性がはっきりと書き分けられている所にも感心しました。
幸薄な令嬢の霧香さんや、彼女のために、誰よりも真摯に事件に向き合う木場さん……ラストも爽やかでとても素敵でした。
いつか紙の本で読みたいです。