第11話 『バスルーム』逃走?
────週末 黒田商店街
時間を少し巻き戻そう。
少しというのはどれほどかといえば、具体的には2日である。
文化祭が終わり、振替休日を挟んで次の登校日である火曜日で先ほどの話が終わったが、ここからの話は文化祭が終わった後すぐの休日に起きた出来事の話であるため、そこのところをご理解いただきたい。
茂木恋は文化祭において、得るものもあったが失うものもあった。
全体を通して評価するのならば、得たものの方が多かっただろう。
しかし、失うものはきちんと失っているのである。
正確にいうならば、彼は自分の貞操を失おうとしていた。
「これから奈緒さんの家か……確かにバイトだから行かないといけないんだけど、バイトだけなはずがないんだよな……」
茂木恋はバイト先である藤田書店に自転車で向かう最中、これから起きるであろうことを想像して震えていた。
何故、茂木恋が今日のバイトに怯えているのかといえば、それは家を出る際の母の言葉が原因であった。
「母さん、『今日は藤田さんの家でご飯ご馳走になるんでしょ? 失礼のないようにするのよ』とか言って……完全に奈緒さんと母さんが繋がってるの確定だろこれ……というかまさか!?」
茂木恋はこれまで自分の身に起きてきた不可解な現象……藤田奈緒が自分の個人情報を何から何まで知っていたという例の現象を思い出す。
あまりにも、当てはまる節が多すぎたのだ。
「母さんが俺の情報を流してやがったな!? 息子を売るなんてなんて酷い母なんだ! メールアドレスがバレるなら、その経路以外考えられないんだよなぁ……」
母を疑うということに多少の罪悪感を感じていた茂木恋であったが、これまで生まれてからずっと一緒に生活してきた母の性格を考えると、その罪悪感は一気に取り払われ怒りと呆れへと変化した。
茂木恋の母はそういう人間なのである。
彼は以前『親の口は軽い』などという台詞をほざいていたが、全くその通りで、彼の母がまさにそれなのであった。
「まあ母さんのことはおいておいて……そういえば、白雪さん。無事に文化祭で優勝できて良かった。あそこまで言って、優勝できなかったら、今頃彼女は不登校になっていたかもしれない。いや……」
そこまでいって、彼は首を横にふった。
茂木恋は白雪有紗と完全に和解した。
だからこそ、彼は彼女のことを信じることにした。
「優勝できてなくても、きっと白雪さんは変われたはずだ。彼女は強い。それは、1番近くにいた俺がよく知ってる」
彼女を疑う気持ちで、自己嫌悪。
小さくため息を吐くと、そんな自分の弱い気持ちを振り払うように、茂木恋は自転車をペダルを強く踏み込んだ。
しかし、踏み込んだと同時に、茂木恋は曲がり角から何者かが飛び出してくるのに気付いて、急いでブレーキを握る。
キキキィ!と甲高い金属とゴムの擦れる音が鳴る。
なんとか飛び出してきた人との接触は回避した。
飛び出してきたのは少女だった。
背は彼より一回りちいさく、斜めにカットされた前髪が特徴的な黒髪少女。
少女は突然のことに目を丸くして驚きをあらわにしていた。
「ごめん、怪我はない?」
「あっ……大丈夫です。この道は慣れてるもので、警戒心が足りませんでした」
「それは良かった。君の可愛い顔に傷でもついちゃったら今夜眠れないところだったよ。それじゃあ」
満面の笑みで颯爽と立ち去る茂木恋。
彼は自分でやっておいてなんだが、自分の行動に驚きを隠せずにいた。
「俺、女の子に対して反射的にキザな台詞を言う癖がついちゃったかもしれない……変わったのは、白雪さんだけじゃないってことかな」
やれやれと頭を抑え、そう言うところがキザだというのだが、茂木恋はバイトへと向かうのであった。
*
────藤田書店 2階
藤田書店は2階建てとなっている。
1階は書店と、風呂。
そして、2階は藤田家の生活スペースである。
商店街でよくあるタイプの家に、藤田奈緒は住んでいた。
「弟くんいらっしゃい♪ ようこそお姉ちゃんの家へ! 自分の家だと思ってゆっくりするんだゾ♪」
「お、お世話になります」
藤色髪のお姉ちゃんこと藤田奈緒は、彼の手をガッチリと胸に掴んで二階のリビングへと招待する。
リビングは非常に質素なデザインで、仏壇とタンス、そして何やら達筆な掛け軸。仏壇には、線香が
お婆ちゃんの家と言ったような印象の部屋であった。
部屋には誰もおらず、茂木恋は大きなちゃぶ台の前に座らせられた。
「はい、弟くんお仕事お疲れ様! お茶飲む?」
「あ、お願いします」
藤田奈緒は早速リビングと繋がるキッチンへと向かう。
書店での仕事中につけていたデニム生地のエプロンを外し、ハンガーにかけると彼女は冷蔵庫から麦茶を取り出した。
茂木恋はそれをなんとなく眺めていたところ、彼女の手つきにある違和感を感じるのであった。
それは明らかに、お茶を注ぐ動作ではない何か。
何か封のしてあるものを破りそれを注ぐような動作であった。
茂木恋は藤田奈緒をヤバい人として……語彙力高めの表現で言うならば、異常な性質を持ち信用ならない人として認識していた。
己のストーカーを信じれる人間などどこにいると言うのだろう。
ただ、彼女の行動原理は自身への愛情であることは茂木恋も知っているため、なんとも責められない気持ちがあった。
「お待たせ〜! はい、弟くんのはこっちだゾ♪」
「……いやぁ……お姉ちゃんが持ってる方が美味しそうですね。そっちをもらってもいいですか?」
「それはだーめ。弟くんのは特別製だから、こっちを飲んでね?」
「いや、でも……」
「なーに弟くん、もしかして……お姉ちゃんと間接キスがしたいのかな!?」
「ち、ち、違いますよ! 何言ってるんですか!?」
「じゃあ、お姉ちゃんのこと疑ってるの? お茶に、変なものでも入れたとか思ってるんでしょ〜? …………お姉ちゃん信用できない?」
「そ、そ、そ、そんなことないですけどね? ただちょっとそっちの方が美味しそうに見えただけなので!」
茂木恋は急いでお盆に乗ったもう一つのお茶を手にとった。
お姉ちゃんから発せられる圧は弟を恐怖させるには十分だったのである。
持ったグラスをマジマジと見つめてみると、茂木恋は下の方に白い何かが溜まっていることに気付いた。
『商品の表面に白い粉が付着していることがありますが、味に違いはありません』云々といった注意書きが書かれる商品がある。
梅干しなどはまさにそれだろう。
では、お茶はどうであろうか。
白い粉が付いてしまうような飲み物なのであろうか。
そもそも液体に粉が付くと言うのは表現としておかしいのではないだろうか。
茂木恋はどうにかその不可解な状況を肯定的に受け入れるべく頭を動かすが、結局何も思いつかなかった。
怪しい薬品はいくつか候補に上がったが、これは『睡眠薬』ではないであろうかという結論が彼の脳内裁判で下された。
「最近俺眠れないんですよね〜お姉ちゃんはどうですか?」
「え〜弟くんも寝れないの〜? もしかして、寝つき悪い方? お姉ちゃんも寝れないんだ〜だから結構前から睡眠導入剤?っていうの使ってるよ♪ ド◯エル♪」
「へ、へぇ……それは良い……それってどんなやつですか?」
「白い錠剤だよ〜! でも、段々既定の量だと眠れなくなってきてるから、最近は砕いて粉状にしてそれを飲んでるんだゾ♪ そうするとね、すっごい効き目が上がるの!」
この物語はフィクションであり、市販の錠剤薬品を勝手に粉末にして飲むようなことは決してやめてください。
また、アルコールやエナジードリンクなど、同時に飲むことで深刻な被害が出るケースもあるため、用法用量はきちんと守って薬は服用してください。
地の文で注意書きをしている間に、茂木恋は何度もお茶の下にたまる白い粉と藤田奈緒の顔を交互に見た。
そして2度目の脳内裁判が行われ、やはりこれが『睡眠薬』ではないかという結論が下された。というかもうこれ確定だよ!
「どうしたの、弟くん? 全然お茶飲んでないけど」
「えっとこれは……」
「ダメだゾ♪ 弟くんはお仕事して疲れてるんだから、ちゃんと水分補給しないと」
さあ、さあと藤田奈緒は彼を永遠の眠りへとお誘いする。
茂木恋自身、喉が乾いているのは確かであったし、ここで飲まないのはあまりに不自然。
ついに彼は意を決して、お茶を一気に飲み干した。
「ゴクゴク…………んっ!? なんだこれ!?」
「ふっふっふ〜! 弟くん気付いた? お姉ちゃんお茶にあるものを入れちゃったんだゾ♪」
「……分かりました。これは……」
茂木恋はお茶を飲み干し、ちゃぶ台にそれを乗せるとほっと一息ついた。
「砂糖ですね? それもかなりたくさん」
「せいかーい! 我が家では疲れたときは砂糖入りのお茶をよく飲むんだよ♪ 弟くんも気に入ってくれたかな?」
「初めて飲みましたけど、案外イケますね。普通に好きな味です」
「よかった〜! 弟くんが気に入ってくれなかったら『牛乳麦茶』『牛乳麦茶砂糖入り』『牛乳麦茶コーヒー入り』『牛乳麦茶コーヒー砂糖入り』まで試すつもりだったけど、気に入ってくれてお姉ちゃん嬉しい!」
「ずいぶん麦茶の飲み方が独特なんですね!? ちょっと他のシリーズも気になります」
茂木恋は砂糖が下にたまったコップを眺めながらそういった。
案外味を気に入ったらしく、満更ではない表情であった。
比喩でもなく、味をしめた藤田奈緒は茂木恋のコップを持ちそそくさとキッチンに向かうと『牛乳麦茶』を作った。
牛乳と麦茶が混ざり白茶色になった液体に氷がいくつか浮いていた。
「はい、どうぞ! 牛乳と麦茶は2:8だよ! これで弟くんもうちの子だね♪」
「ありがとうございます…………あっ、結構いけますねこれも!」
「そうでしょそうでしょ〜! お姉ちゃん1番それが好き♪ 弟くんもいっぱい牛乳飲んで、すくすく育つんだゾ♪」
藤田奈緒はえっへんと胸をはる。
そのバカでかい双丘がバインと、いやブルンと、いやボインと……効果音はどうでも良いのだがとにかく揺れに揺れて茂木恋の視線が釘付けとなった。
これが牛乳効果かと茂木恋はゴクリと生唾を飲む。
彼女が言うそれは、説得力が尋常ではなかった。
茂木恋自身実は背丈がそこまで高くなく、藤田奈緒より小さいくらいであるので、若干背の低さにはコンプレックスがあった。
明日から牛乳でも飲むかとメモを取ろうとスマホを起動したところで、彼は目が霞んでいることに気付いた。
目蓋が重く、だんだんと開けていられなくなる。
「あれっ……なんだか急に眠く……」
「どうしたの、弟くん? 首が据わってないよ?」
「すいません。すごく眠くて……」
「だったらお姉ちゃんが膝枕してあげる♪ ほらほら遠慮しないで!」
藤田奈緒は茂木恋の頭を自分の膝の上へ。
愛おしそうに彼の頭を撫で始めた。
薄れゆく意識の中で、茂木恋は2杯目のコップを見る。
白茶色のそれは、まさに白い粉末を隠すにはうってつけのものであると彼は後悔し、意識を落とした。
*
────藤田奈緒の家 風呂場
全身が温かみに包まれる感覚。
心地よい感覚に、茂木恋の意識はゆっくりと覚醒していく。
「……ってなんじゃこりゃああああああ!!!!?!?!?」
「弟くんおはよっ♪ 急に眠っちゃうんだから心配したんだゾ♪ お風呂入り忘れてたから、お姉ちゃんが入れてあげてたところだよ」
藤田奈緒は横ピースでウィンクした。
キラーンとかの効果音とともに星が舞う。
茂木恋は状況を把握し切れていないが、今の状況を簡単に説明すれば、お姉ちゃんと弟が一緒にお風呂に浸っているという、非常に健全な状況であった。
背後から腕を回された弟は、姉の柔らかな肉体に包まれている。
銀色の浴槽は足を伸ばすことができないほどの大きさであり、およそ2人で入ることが想定されていない大きさであった。
茂木恋は背中に触れるどうしようもなく主張するソレを意識してしまい、股間を抑えた。
「弟くん、文化祭の時に言ったよね? お姉ちゃんと一緒にお風呂に入っても良いって。昨日の今日だけど、早速実現しちゃったね♪」
「い、い、い、言いましたけど、どうしていつの間に!?」
「ソレはさっき言ったでしょ〜! 弟くんが眠っちゃったから、仕方なくお姉ちゃんがお風呂に入れてあげてるんだよ! もう忘れちゃったの? おっちょこちょいな弟くんめ♪」
再び藤田奈緒の腕の力が強まる。
彼女の身体はどこもかしこも硬いところなど一箇所もなく、極上のクッションのように彼の体を包み込む。
お風呂の熱さも相まって、茂木恋は目の奥がチカチカするように目眩がした。
「弟くんの身体……硬いね。男の子の……身体だ。昔はこんなじゃなかったのに……成長したんだね」
「……俺たち昔どこかで会いましたっけ」
「…………あれ? お姉ちゃんおかしなこと言ったかな? 今のは忘れて♪」
本当に何を言ったのか覚えていないかのように、彼女は首を傾げた。
おとぼけお姉ちゃんである。
姉がとぼけたとき、弟はソレに深く突っ込んではならないのだ。
「そうだ! 弟くんの身体洗ってあげるよ! いつもお仕事頑張ってくれてるお礼だよ♪」
「えっ、ちょっとまっ…………うわあああああ!!!!!」
毎回恒例の茂木恋の叫びに合わせて、彼の身体が持ち上がる。
そして、あれよあれよと椅子に座らせ彼の背後をとった。
「それじゃあ、髪の毛濡らしちゃうよ! 目を閉じるんだゾ♪」
「ちょっとまってお姉ちゃん! 俺は……」
「もしかしてシャンプーハットがないと怖いかな?」
「そうじゃなくて! 頭くらい自分で洗えるから大丈夫だって話ですよ」
「でも、弟くんシャンプーしてもらう動画とかよく見てるから」
茂木恋の背筋がピンと伸びる。
図星であった。
何を隠そう茂木恋は寝る際に動画を流しながら寝ることが多い。
そのとき流す動画は耳かき、耳元ささやき、少しエッチなシチュエーションのものなど色々種類があるが中でも茂木恋はシャンプーをしてもらう動画が好みであった。
「ど、ど、ど、どうしてそれを……!」
「弟くんのことならお姉ちゃんなんでも知ってるからだよ♪ お姉ちゃんはバイノーラルマイクは持ってないけど、こうやって……直接弟くんのシャンプーはしてあげられるんだよ!」
「…………そこまで知られているなら……お願いします」
力なく茂木恋はこうべを垂れた。
お姉ちゃんパワーの前では、日頃憧れていた他人にシャンプーをしてもらうという魅力的なシチュエーションの前では、一介の男子高校生の抵抗など無に等しいのである。
はじめに藤田奈緒はシャワーで茂木恋の髪を濡らした。
そして、シャンプーを手につけ少し泡だててから、彼の頭の上でさらに泡だて始める。
シャカシャカと軽快なリズムで頭皮を刺激され、茂木恋は思わず声が漏れた。
「あっ……そこ気持ちいいです」
「つむじの辺りが好きなの? じゃあ……」
「そこいい……あれっ? むっ……お姉ちゃんまさか……」
「どうしたの弟くん? 何か不満があるのかな〜?」
茂木恋は頭を左右に動かして掻く場所を調整しようとするも、スルリと逃げられてしまう。
だんだんと焦ったくなって身体をくねらせる彼を見て、藤田奈緒はとても楽しそうであった。
「お姉ちゃんわざとつむじを避けてますね!? ズルイですよ!」
「くっくっく〜! 気持ちいいことは、我慢して我慢して我慢した後にした方が……もっと気持ちいいんだよ? だからお姉ちゃんを信じて♪」
「じゃ、じゃあ…………むむむ…………あっ、そこ………………ぐぬぬ…………そこいいです……!」
無事に藤田奈緒の術中に嵌る茂木恋。
快感のポイントをズラされてはたまに触れ、ズラされてはたまに触れを繰り返すことにより、ランダムに訪れる快感の波に酔いしれた。
お姉ちゃんは弟を気持ちよくさせる天才なのである。
「弟くん気持ちよさそう。気持ちよくなってくれたみたいでお姉ちゃんも嬉しいよ♪」
「は、はい。すごく気持ちよかったです。まさかリアルでシャンプーしてもらうのがこんなに気持ちよかったなんて……」
「そういえばシャンプーもちゃんと弟くんの髪に合ってるから安心してねっ♪ 前に弟くんにかしたシャンプーはあまり髪に合わなかったみたいだから、弟くんの家のにしたんだゾ♪」
「どうして俺の家のシャンプーを……」
「弟くんのことならお姉ちゃんなんでも知ってるからだよっ♪」
母がリークしたからである。もしくは、茂木恋の家に訪れた時に密かに確認したからであるのだが、どちらが真実であるかは闇の中……否、お姉ちゃんの中である。
しばらく茂木恋の髪を洗った後、次は身体を洗うことになった。
なぜ身体まで?という当然の疑問を茂木恋は始めは抱いたが、頭を洗ったら身体も洗わないと気持ちが悪いという真っ当そうな理由をぶつけられ丸め込まれてしまうのだった。
「弟くん背中おっきいね〜すっごく頼もしいゾ♪」
「そうですか? 運動部でもないし、そんなにいい身体じゃないと思いますけど……」
「ううん、弟くんの身体ならどんな姿だって素敵だよ! きっと肉片になっても弟くんを愛しちゃうかも♪」
「ちょっとそういうキャラは他で間に合ってるんでやめてください……!」
「ところで、弟くんはお姉ちゃんの身体は、いい身体だって思う?」
「それはどういう意味……って、ひゃん!」
木戸◯吹のような声で飛び跳ねる茂木恋。
なぜ男がこんな可愛い声で鳴かなければならないのかといえば、彼の背中に異常事態が発生したからである。
硬直した彼の背中には、藤田奈緒の胸がむにゅっとむにゃっと潰されるようにして接触していたのだ。
散々言ってきているが、藤田奈緒はグラビアモデル顔負けのナイスバディ。
彼女のそれは男子高校生には刺激が強すぎたのであった。
藤田奈緒はダメおしとばかりに耳元で囁いた。
「どうなの? お姉ちゃんの身体は魅力的かな?」
「それは……そうですよ。お姉ちゃんはとても素敵です」
「えへへ〜ありがと! 弟くんに褒められてお姉ちゃん嬉しいゾ♪ 嬉しいから……ぎゅーってしちゃお!」
「そんなことしたら……ああああああ!!」
後ろからギュッと抱きしめられた茂木恋。
このままでは彼のアレがそれであれなので、どうにかして逃れようと試みてはみるのであるが、今現在彼は身体を洗っている途中である。
当然身体は泡で包まれており、ボディーソープというのは身体同士の摩擦を低減させる。
結果として、抵抗すればするほど藤田奈緒の柔肌を強く意識してしまうという二重地獄が完成した。
しばらくイチャイチャしていると藤田奈緒の腕の力が弱まる。
何事かと茂木恋が後ろを振り向くと、彼女は顔を真っ赤にしていた。
「そっか……弟くんも男の子……だもんね。こんなに密着したら……そうなっちゃうよね」
「そうなっちゃうって……うわあああああああ!!!!!!」
茂木恋は嫌な予感がして視線を下へ。
隠しようがないほどに、彼のアレがそれであれであった。
「お姉ちゃんの身体で大っきくしてくれたのは嬉しい……けど、弟くんダメだよ? 私たちは
「言葉遊びはいいですから離れてくださいよおおおお!!!!!」
茂木恋は涙した。
必ず、かの邪智暴虐のお姉ちゃんから逃げなければならぬと決意した。
メロスっぽい地の文から導き出される彼の行動はまさに逃走であった。
藤田奈緒が腕の力を緩めた隙に、身体をシャワーで流すと一目散に風呂場を後にするのだった。
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