145話 芸術家さもなくば医者

 ギリムの計らいで暫定鉄製ボディを手に入れた、初心者デュラハン俺。

 次はスキルを振ろうと思いついたところで思考がループに入り数十分が経過。

 業を煮やしたドクンちゃんたちにより、歩きながらスキル構成を考えることになった。

 向かう先はギリム(とその連れのグレムリン=バブル)の拠点であり、なつかしのリザードマン村である。


 空中都市エリアの外れ、とある家屋。

 そこに無造作に取り付けられたレバーを動かすと、体育館ほどの部屋に出た。

 敵はおらず、空の宝箱だけが置いてある。

 ギリムのパーティが空中都市への道すがらにクリアした部屋だ。


「なあ、宝箱には何が入ってたんだ?」


「《魔法付与|エンチャント》された片手剣じゃったな。たしか『静寂なる嵐』とかいう大層な異名がついておった」


 軽く警戒しつつ部屋の反対側、つまりもう一つの出入口用レバーを目指す。

 空箱を脇目にずんずん進んでいく。


「すごそう! ちょっと見してよ」


「もう溶かした。武器つかわんし」


「嘘だろ!?」


 そんな一幕もありつつ、俺たちはついに沼地エリアに到達していた。

 迅速に不満を述べたのは真っ白い毛並みと俊足が売りのホルンだった。


「歩きにくいうえ泥が跳ねるではないか……フジミ、いまだけ我を背負うことを許そう」


「やだよ重い」


「マスターの上はアタシの特等席なんだからね」


 馬なんだから乗せる側だろ、という言葉は確実に怒らせるので飲み込んだ。

 ホルンの背にはいくつかの荷物とフーちゃんだけが搭載を許されている。 

 グレムリンのバブルはギリムの頭に大人しくしがみついて寝ている。

 アイリーンといえば、少し前ならブー垂れてそうなもんだったけど、嫌な顔しつつも黙って続いていた。


 けれどホルンの文句ももっともだ。

 雲におおわれた薄灰の空の下、ぬかるみがどこまでも続いている。

 一歩ごとにまとわりつく泥が地味に体力を奪う。

 やせた低木がまばらに生えている程度で、見通しがいいのだけが救いだ。

 同時に、この歩きにくさが当分続くことが分かって気が滅入る。


 ギリムが言ったとおり、この部屋はさっさと抜けたいところだ。

 単純に歩きにくいし、攻略済みとはいえ敵に襲われたら不利だというストレスもある。

 さっさと歩けるようボディを替えてよかった。


「じゃ、じゃあ暇だしスキルの話していい?」


「ずっとソレやりたくてソワソワしてたのバレてますから」


 ふふ、アイリーンよ。 あきれた風を装っているが俺は知っているぞ。

 さっき人知れずスキル画面を開いて、悩んで、特に操作せずに閉じていたことをな。

 アイリーンは人間族でスキル成長が早い。

 古城エリアで結構なポイント貰ったに違いない。

 たぶん未配分のスキルポイントの使い道に悩み、俺を参考にしたいのだろう。


 さて、警戒はホルンに任せてスキル会議をはじめるとしよう。

 記憶を取り戻したドクンちゃんは、いまや最強アドバイザーだ。

 最終的なスキル振りはボディ次第だろうが、現状の手札を知り、最低限整えておくことにしたのだ。


 古城に入ってからステータス画面をまじまじ見る機会はなかったな。

 一難去ってまた一難去って連戦に次ぐ連戦だったから。


「懐かしさを込めてステータスオープン」


=====

 フジミ=タツアキ(未使用)

 Lv :49

 種族:魔族

 種別:デュラハン

 称号:転生者

 ユニークスキル:セカンドライフ デュラハナイズ 魔族の誓約 武芸熟達

 スキル:不死 生命探知Lv2 魔力探知Lv1 自然回復Lv5 闇魔法Lv4

     属性剣Lv3 対抗魔撃Lv3     

     剣術Lv3 体術Lv3 統率Lv3

     物理耐性Lv4 魔法耐性Lv3

     毒耐性LvM 呪耐性LvM 睡眠耐性LvM 魅了耐性LvM

     石化耐性LvM 麻痺耐性LvM 即死耐性LvM 恐怖耐性LvM

     火耐性Lv-3 聖耐性Lv-5

     (鑑定Lv1)

 =====

 

 ステータス画面の内容はドクンちゃんにしか共有しないことにしている。

 他のメンバーを信頼していないわけじゃないけど、どうしても超えられない一線な気がするのだ。

 と言ったら意外にもアイリーンから同意が返ってきた。


「そりゃそうですわよ。自分の生きる術を見せびらかすなんて、どうかしてますわ」


 特に冒険者にとっちゃ生死を左右する情報なんだとか。

 ……言われてみればそうか、納得。


 さて気を取り直していこう。

 相変わらずな『未使用』状態はもはや諦めの境地。

 レベルはドラウグル進化時点で35だったのが49に大幅アップ。

 ちなみにレベル49ってのは、あの偽シルバーゴーレム(Lv43)やコカトリス(Lv45)より高く、暗殺神官たち(Lv48と50)と同等だ。

 神官はともかく、ゴーレムとコカトリスって、かなり前に戦ったような。

 

「……つくづくレベルデザイン狂ってるよ、俺の異世界ライフ」


「いいじゃない、ドクンちゃんっていうチート美少女がもらえたんだから」


 チートかー。

 聖剣なんたらカリバーが頭をよぎったが、すぐに打ち消した。

 あれが俺の手に収まる世界線があったとしたら、いろいろ楽ちんだっただろうな。

 でも今より楽しくはなかったに違いない。


「ちょっと何笑ってんのよマスター!」


「ちがうって、別のこと考えてたんだって!」


 勘違いしたドクンちゃんを怒らせてしまいつつ、次を見ていく。


 種族種別はデュラハンになったことで魔族の仲間入りを果たした。

 称号は変わらず。

 変化が多いのはここからだ。

 ユニークスキルにデュラハナイズ、魔族の制約、武芸熟達が加わったがフロストバイト、生命吸収、精神吸収、恐慌纏い、マヒ毒付与、マヒ毒強化が消えた。

 スキルは増えたものは魔力探知くらい、また多くの耐性スキルが上昇した。

 減ったスキルは氷魔法、死霊術、凍結強化、隠密、MP回復、MP拡張、恐慌強化、氷耐性で、さらに一部の耐性スキルが悪化した。


 全体的に減ったスキルが多く、それらはかつてSP――スキルポイントを費やして取得したものが多かった。

 あと冷気関連のスキルをまとめて失った。

 冷気系モンスターじゃなくなったせいかも。

 まあ未配分のスキルポイントとして還元されたから、問題はない。


「本当にそうかしら? 思い出してマスター。モンスターの成長適性ってば、めちゃくちゃシビアだったことを」


 平然と思考を先回りしてアシストしてくるドクンちゃんに恐れおののく。

 デュラハンの成長適性=向いているスキルとは。


「なるほど」


 試しに没収された氷魔法を取ろうとしてみる。

 要求されたSPは6。

 スキルレベル0から1にあげるだけで6要求だ。

 今度は槍術で試してみると、要求SPは1。

 他にもいじってみると、体を動かしたり武具に関連するスキルはSP1~3要求に収まるのに対し、魔術系や状態異常など搦め手スキルは軒並みSP3以上を要求される。 


「適性が戦士系になってるのか?」


「デュラハンについては詳しくないけど、見たまんまの肉弾戦キャラみたいね」


 モンスターは生まれ持ったスキルや肉体が強力な代わりに、成長が遅く制限がある。

 制限とはスキル適性の有無だ。

 適性のないスキルをとれないわけじゃないけれど、適性のあるスキルに比べて2倍以上のポイントが必要になってしまうのだ。

 没収されたスキルの多くは魔法系で要求SPが多い。

 つまり還ってきたSPで失ったスキルを再取得しようとしても、ドラウグル時代のスキル構成を再現できない=ポイントが足りないってこと。

 大幅な戦闘スタイルの見直しが必要だ。

 どうしたもんかな。


「ちょうど良かったじゃない。マスター、魔術へたっぴだし」


「……え?」


「あっ」


 しまった、というようにドクンちゃんが口をつぐんだ。

 俺って魔術ヘタなんだ……。


「あの、あれよ! 魔術には貯蔵、出力、操作っていう三段階の動作が必要なんだけど、マスターは出力と操作が人よりちょっとだけ個性的っていうか芸術家タイプっていうか……」


「適性ない人に遠回しに言うやつじゃん!」


 適職診断で芸術家だの医者だのを進められて喜んでいた俺を、地獄に落とした友人を思い出した。

 どこの世界も残酷なものである。

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