96話 砂漠で一休み
聖属性を操る神官暗殺者二人組をブチ殺したものの辺りは酷い有様だ。
暴走中に鎧はすっかり脱げ落ちて、胴体に収納していたアイテムたちは四方八方に飛び散ってる。
加えて頼りの
元気なのは息を潜めていたフュージョンミミックのフーちゃんだけだが……
「ゼノンは完全にどっか行ったな……あ、フーちゃん! こんなところにいやがった」
もこもこ潜っている箱を引き上げる。
砂漠に隠された宝箱と言えばワクワクな響きだが、実際にはヤドカリっぽいヘンテコ生物である。
フュージョンミミックというモンスターは、ダンジョンに落ちているアイテムを拾い食いして回る習性をもつ。
宝箱に擬態し本体が謎に包まれているのも面白いが、特に奇妙なのは排泄行為だ。
「……なんか震えてるぞ、まさかこいつ! なに喰いやがった出しやがれ!」
複数のアイテムを飲み込んだミミックは、やがて新たなアイテムをフンとして排出する。
そのアイテムこそ、餌の特性を
……だいたいろくなことにならないけど。
「オエッ」
「げぇぇ、なぁにぃコレェ」
汚ぇな……。
唾液まみれのブツが吐き出され、不潔に砂にまみれた。
ワインボトルに似たシルエットのそれは――
「よりによって”木彫りの女神像”喰いやがったんかショック! どうなっちゃったんだ」
祈ることで自動回復フィールドを展開する便利アイテム。
アンデッドの俺には逆にダメージを与えるが、傷ついたドクンちゃんとホルンを回復させる唯一の手段なのだ。
なのに、今まさに探していた重要品を毒牙にかけやがった。
急いで鑑定してみると……
<<木彫りの毒女神像:アイテム レアリティ:コモン>>
<<祈ることで自動回復フィールドを発生させる>>
<<属性付与:毒>>
「毒が付いてるし。 祈ったら毒になるとかないだろうな……女神サイコー」
試しに祈ってみれば、ほわほわした見慣れた光がドーム状に広がる。
そして急速に減っていく俺のHP。
「ぐえっ使えるわグェエェェ」
悪寒を抑えながら素早くホルンへと像を放り投げる。
女神はホルンの主にあたるらしいので罰当たりな行いだ。
……先に無礼を働いてきたのは女神のほうなので知ったこっちゃない。
「助かるぞフジ――グェェェ! 神聖なる女神像に何をした!?」
「えぇ?」
回復フィールドに収まったホルンは一瞬心地よさそうにしたものの、すぐに苦しみ始めた。
状態を確認してみれば<<poison>>の表示。
「毒付与ってそういう……」
たぶん合成されたもう一つのアイテムは毒薬だ。
なんて言ったかな、なんとかスパイダーの体液的な。
どうやら投げつけて命中した拍子にホルンに毒を与えてしまったっぽい。
これじゃ本末転倒かと思いきや、さらによくよく見ると毒のダメージより自動回復の速度が勝っている。
そのうち毒の効果時間は終わりそうだし、いずれは完全回復できるだろう。
「すまんけどしばらく我慢しといて。 いやぁドクンちゃんに当たらなくてよかったわ」
「下郎め」
ホルンのお腹に乗せているドクンちゃんは重症だ。
俺が握りつぶしたせいで体力はほぼ空。
毒になっていたらマジで死んでしまったかもしれない。
二人を回復させているうちに俺は周囲のゴミ拾い、もといアイテム拾いを済ませておくとしよう。
ホルンに持たせていた荷物袋やら、俺が収納していたものやらが散らばってしまったからな。
……
…………
………………
まあまあ時間をかけてアイテムを拾い切ったが、ドクンちゃんは未だ目覚めない。
HPは順調に回復しているから大丈夫だとは思うけど。
起きたら全力で土下座しないとな。
暴走していたとはいえ、信頼してくれる仲間を殺そうとしたのは情けない限りだ。
「我も蹴られたのだが?」
「ホントすみません、どうにかしてました」
ホルンに詫びつつ、整理もかねて俺はアイテム目録を作ることにした。
ゾンビの頃より格段に強くなったせいか、所持品の管理がずさんになっていた自覚はあった。
ただほら、片付けとか整理って大嫌いなんだよ……。
と言いつつも楽しくなってきた。
砂の上のアイテムをきれいに並べ始めていくこと暫し。
完成した目録がこれだ。
松明 ×1
アイスブランド ×1
鎧一式(ギリムカスタム)×1
木彫りの毒女神像 ×1
モンスター鑑定の巻物 ×2
フレイムスパイダーの毒液 ×1
クロスボウ ×1
幻惑の杖 ×1
ユニコーンの角 ×1
探知の指輪 ×1
双唱の指輪 ×1
対人間族の指輪 ×1
竜の黒卵 ×1
愚者の瞳 ×1
……結構集めたな。
そして存在を忘れていたものも少なくない。
「いつもならドクンちゃんがワンポイント解説入れてくれんだけどなぁ」
進化後の座談会もしばらくやってないなあ。
「待て。 なぜ一抹の寂しさを感じつつ片付けようとしている?」
えっ?
回復したホルンが近寄ってきた。
見るからに不機嫌だ。
暴走した俺が鞭のような蹴りを入れたから……だけじゃないらしい。
「いつになったら我の角を返すつもりだ」
「あぁコレね? そんなこともあったイタイタイタイイタイて」
ゴリゴリと俺の足の甲を踏むホルン。
足ペラペラになっちゃうからやめてください。
「ていうかマジで忘れてたわ、これとか」
探知の指輪に、双唱の指輪に、対人間族の指輪。
どれもこれも使い勝手が絶妙に悪くてね。
対人間族の指輪?
こんなのもってたっけ?
「……ふあぁ、おあようマスター、ホルンちゃん」
そこで待望の声が聞こえてきた。
「ドクン殿、目が覚めたか!」
「おはようドクンちゃんほんとにごめん、この通りコレ仲直りの品です!」
砂を巻き上げながら土下座しつつ謎の指輪を献上する俺であった。
「謝罪と土下座と献上を同時だと……! なんという情けない不死者だ」
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