32話 共同作戦

 リザードマンたちと協力関係を結んだ俺。

 宴の翌朝、赤いうろこのリゼルヴァとともに俺たちは村を発った。

 目的は一族の宝と遭難したリザードマンの保護だ。

 俺にとってはどっちも探索のついでだけどね。


 村を発ってから半日、森に終わりは見えない。

 それどころか崖や谷なんかも登場してきて、ここはアイテムボックスの一室であることが疑わしくなってきた。


「むしろアイテムとモンスターが対になっただけの部屋などみたことがない」


 逆にリゼルヴァは俺を疑っている。

 それくらいに俺とリザードマンの置かれた環境は異なっていた。


「このあたりでゴブリン、オークの群れと戦闘になった。手こずりはしなかったがな。

 ここから先が未知の領域になる」


 少し開けた場所に出た。

 あたりにはモンスターの死体が散乱し、戦いの記憶を残している。

 よくみると豚の頭部も転がっていた。


「オーク……いいなぁ、まだ会えてないなあ」


 豚頭の屈強な獣人、それがオーク。

 ファンタジーではゴブリンをタフにしたような役割の定番モンスターだ。

 やっぱりフゴフゴ言うのかしら。

 最近はお肉おいしい説がささやかれているけど。


「またマスターが妄想してる……」


「フジミはいつもこうなのか?」


「いつもこうよ」


 ドクンちゃんとリゼルヴァが呆れているが、しかたないだろう。

 こちとら念願の異世界に転生して見るもの全てがワクワクなのだ。

 かわいい女の子を早く見たいよ。


 ところでリゼルヴァは俺のことを苗字で呼び始めた。

 曰く「私とお前の仲ならこれくらいが適切」らしい……よく分からん。


 いまのパーティーメンバーは俺、ドクンちゃん、ホブスケ、ホルン、トリスケ。

 これに加えてリゼルヴァとリザードマン三人の大所帯だ。


 ゴブスケを置いてきたのは村の護衛に充てたから。

 外敵を排除するよう自動で動く指示が出しておいた。

 それと配下のスケルトンが破壊された場合は俺に伝わるので、敵襲を察知できるのだ。

 フーちゃんことフュージョンミミックを置いてきたのは足手まといだからである。


「おい、何か来るぞ」


「みんな隠れろ」


 荷物係のホルンが警告する。

 角を折られたユニコーンはただの馬だと思っていたが、こいつの索敵能力は随一だ。

 草食動物の危機感知能力ってすごい。



 全員が隠れ、息を潜めていると前方の茂みから重い足音が聞こえてきた。

 そして姿を現したのは、見上げるような巨体が二つ。

 肌は暗い緑色。

 シルエットはトロールに似ているがより筋肉質だ。

 力士がトロールなら、こいつらはボディビルダーとでも言おうか。

 二本の短い角が額から生えている。

 屈強な上半身は、体格に見合う鉄鎧が守っている。

 斧を片手にもっているが、人間なら両手で抱えるほどの代物だ。

 

 このシルエット。

 俺の勘が正しければ――


「オーガか……?」


「初めて見た」


「初めて見た」


「初めて見た」


 ドクンちゃん、リゼルヴァ、ホルンが同じ反応を返した。

 全員初見かよ。


<<Lv48 種族:巨人 種別:オーガ 魔族化>>

<<Lv46 種族:巨人 種別:オーガ 魔族化>>

 

 やはりオーガだった、カッコいいな。


 トロールやオークに並んでマッシブなモンスター、それがオーガだ。

 日本でいう鬼に最も近いモンスターで、それこそ直訳される場合もある。

 ゲームなんかだとオークやトロールよりも、ややイケメン枠で登場することが多い。

 海外の作品だと中立的だったり、味方だったりすることもある。

 たしかに滅茶苦茶イカツイけど人間に近い顔立ちをしている。

 

 ただ、どう見てもお話しできそうな面構えじゃない。

 ぶち殺せる獲物を血眼になって探している、そんな表情だ。


 そして気になるのは鑑定結果の最後。


「魔族化?」


 リゼルヴァが疑問に答えてくれる。


「魔族によって改造された個体だ。レベルと特性が強化されている」


 そういえば族長が『魔族に支配されたモンスターは鑑定でわかる』みたいなこと言ってたな。


「あいつら目が怖いよ、マスター」


 ドクンちゃんが怖がるのも無理はない。

 オーガの目はぎらついているというか、血走っていて真っ赤だ。

 瞳と白目の判別がつかないほどに。

 明らかに異常をきたしている。


「初見のオーガが魔族化ってのは不安だけど、やるしかねぇな」


「フジミの本気を見せてもらおう」


 村一番の強者は不敵に笑う。

 こいつ本当に戦いが好きなんだな。


 このままオーガが進めば村にたどり着いてしまうだろう。

 こうしてリザードマンとマミーの第一回共同作戦が展開された。



***


 かつての魔王城にして今はその廃墟。

 一頭の魔獣と一人の人間が対峙している。

 獅子のような魔獣は獰猛な牙をのぞかせて笑った。


「ようこそ。求めぬのに求められる者、求められたのに求められぬ者」


「黙って通せ殺すぞ」


 廃墟の一画。

 魔王討伐時に見逃していた、隠し通路を勇者は発見した。

 通路には姿を消した魔獣が番をしていたが、それは彼にとって障害になり得ない。

 ここに来るまで無数の魔物を聖剣で斬り捨ててきたのだ。


「戦う必要はありませんよ、ケルベロス」


 壁の中から現れる者がいる。

 魔法で隠された道が、壁の向こうに続いているのだ。


 痩身の不健康そうな男だ。

 上等なスーツは荒れ果てた廃墟には酷く不釣り合いに見える。


「お待ちしていました、どうぞ」


「誰だ貴様」


「わたくしめはしもべにすぎません。あなた方を待つ、主の忠実なるしもべ


 男が一瞥する先には身を隠す少女の姿があった。

 勇者を追いかける聖女――アイリーンだ。

 

 やがて男に導かれ勇者は壁の中へ消えていった。

 それを追う、少女もまた。


***

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