31話 合体事故
リザードマンたちはアイテムボックスのどこかにある一族の宝を探しているらしい。
探索ついでに見つけたら渡すこと、はぐれたリザードマンを助けてほしいと請われた俺。
承諾と引き換えに、彼らが発見した戦利品を分けてもらうことになった。
「私たちの探索で手に入ったのはこれだけだ。あとは山ほどの薬草だな」
族長の家からほど近く。
アイテムが収められている倉庫に俺は案内された。
入口に番が立っているものの急ごしらえの簡素な建物だ。
アイテムボックスの中で拾った、木材やら何やらを集めて作ったんだそうだ
……かなりのアウトドアテクニックだよな、インドアの俺には無理です。
そこには山ほどのアイテム……はなかった、残念ながら。
だがアイテムの類はいつ見てもワクワクするものだ。
片っ端から鑑定していく。
ついてきたドクンちゃんも興味深そうに見てる。
<<退魔のハルバード:魔を強く退ける槍>>
「ハルバード、最高にクールだぜ。しかし退魔ねぇ……シルバーゴーレム戦を思い出すな」
「スライムがいなかったらと思うとゾッとするわね」
<<クリエイト・ゴーレムのスクロール:素材からゴーレムを作成する>> 3個
「わお面白そう」
「問題は何を素材にするかよ」
<<水神の像:祈ると周囲の水を浄化するフィールドを展開する>>
「水はサバイバルの基本じゃん、必需品じゃん」
「アンデッドのマスターには不要ね」
<<探知の指輪:レアリティコモン以上のアイテムを探知できる>>
「アイテムを取り逃がさないのは大事」
「大事ね」
最後のお楽しみアイテムは最奥に置かれた武器だ。
外観は1.5メートルほど。
質素な両手剣だ。
それを見るリゼルヴァの顔が少し険しいのが気になる。
ひょっとしてお気に入りだから渡したくないとか?
その理由はすぐに明らかになった。
<<死のバスタードソード:アイテム レアリティ:アンコモン>>
<<振るうたびに確率で死ぬ 同武器のエンチャントを強化する>>
確率で死ぬ。
いきなり物騒な文言が飛び込んできた。
「スタイリッシュ自殺アイテムかよ」
「一応、エンチャントを強化するメリットもついてるけど、意味ないわね」
”同武器のエンチャントを強化する”という文言をドクンちゃんが解説してくれた。
これは同一アイテムに同居する効果を高めるとのこと。
例えば退魔のハルバードについていれば、退魔の力を増幅する。
しかし現実には、死のバスタードソードには高めるべき”同居する効果”がないため純粋なデメリットになっている。
ていうか確率で死ぬ剣なんて、どれだけ強くても振りたくないわ。
「確認なんだけどリゼルヴァ、これって相手を確率で死なすんじゃなくて?」
「……その剣を発見したバカが何度か振り回したところ、たしかに突然死した。敵を殺す前にな」
「えっ、ごめん。茶化すようなこと言って」
スタイリッシュ自殺アイテムでマジに死人が出ていたとは。
「気にするな。注意力が欠けていては遠からず死ぬ定めだ」
シビアな人だよ村一番の強者は。
と、思案顔のドクンちゃんが手を打った。
「騙して敵に振らせたほうが強いんじゃないかしら、コレ」
「一周してそういう使い方したほうがいいかもな」
族長は必要があればアイテムをくれると言っていた。
ありがたく頂戴しようと思うのだが、さてどれにしよう。
どれも面白そうだな、それこそ空間魔法が使えたら全部もっていきたいくらいだ。
あまりにも目を輝かせている俺が心配になったのか、リゼルヴァが申訳なさそうに述べる。
「できれば防衛に役立つアイテムは残してくれるとありがたいのだが」
「オッケーオッケー。そこまでがめつくないよ俺は」
モンスターに村が襲われたことがあるんだそうだ。
防衛や治療に使えそうなアイテムは残してあげたほうがいいだろう。
「じゃあ探知の指輪で。あとは――」
クリエイト・ゴーレムのスクロールかな。
思った矢先、俺は侵入者に気がついた。
そいつは気配を殺して死のバスタードソードに忍び寄っていた。
俺はそいつを知っている。
「そ、その声は! フュージョンミミックのフーちゃん!!!」
「フーちゃんは喋れないわよ」
ドクンちゃんが静かにつっこんでくれた。
宴のさなか、おとなしくしていると思ったらこんなところに現れるとは。
アイテムを食べるモンスターとして、倉庫の存在を嗅ぎつけたのだろうか。
「やばい、アイテム隠せ! 食われるぞ!」
「このモンスターはお前たちの仲間ではないのか?」
事態を把握していないリゼルヴァは放っておいて、ドクンちゃんがアイテム類を遠くへ投げ始める。
俺はフーちゃんを拘束すべく包帯を伸ばした。
力づくで蓋を閉じてやろうとしたのだ。
「――!」
「なにっ!?」
放った包帯は、機敏な跳躍によってかわされた。
こしゃくな……。
まるで軌道を読んでいたかのようだ。
こいつ、食い物が絡むと動きが変わらない?
「あっ!」
跳ねる勢いのままバスタードソードを飲み込むフーちゃん。
刃先からするすると宝箱に収納されていく様はびっくり人間ショーのよう。
自身の寸法を大幅に超えるアイテムもなんなく食べられるらしい。
瞬く間に長剣を平らげると静かに蓋を閉じた。
「まあ、ハズレアイテムだしいいか」
「……なんだか具合悪そうじゃない?」
満足して静まったかと思いきや、フーちゃんは細かく蓋を開閉している。
言われてみれば病人が浅く呼吸しているように見えなくもない。
呪いのアイテム食べてお腹壊しちゃった?
「――!!」
「なんか震えてるよマスター」
「えぇ……死なないよなぁ、大丈夫?」
このとき、俺たちは心配のあまり忘れていた。
フュージョンミミックの性質――『二つ以上のアイテムを一つに合成する』ことを。
この時点で、やつはまだ一つのアイテムしか喰らっていないのだ。
「んなっ!?」
一閃。
高枝はさみのような手が箱から伸び、俺のアイスブランドをひったくった。
包帯使いも舌を巻く精確さだ。
瞬時に飲み込まれる愛剣。
頑なに蓋を閉ざすフーちゃん。
諦める俺とドクンちゃん。
置いてけぼりのリゼルヴァ。
やがてぶるぶると震えたフーちゃんは、盛大なゲップとともに剣を吐き出した。
ショートソードからバスタードソードへ成長したアイスブランドだ。
……見た目は。
<<死のアイスブランド:アイテム レアリティ:レア>>
<<決意の刻まれた両手剣 帯びた魔力により敵を凍結する>>
<<勇者の覚悟と同じく決して錆びることも折れることもない>>
<<振るうたびに確率で死ぬ 同武器のエンチャントを強化する>>
「やりやがったー!」
いびきを立てる箱型モンスターを、俺は力なく揺すった。
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