30話 協力者

 ヒドラプラントに苦戦していたリザードマン一行を助けた俺たち。

 彼らの村で歓待される中、余興として村一番の強者と腕試しすることに。

 忖度を忘れて相手を湖にブン投げた俺は「さすがマミー」の称賛を浴びた。


「で、族長たちは外に出てどうするの?」


「私たちの唯一の望みは、仲間とともにひっそり暮らすことだけなのです」


 村一番の強者――リゼルヴァという赤いリザードマンを倒してから、俺はますます慕われてしまったようだ。

 リザードマン美女たちに肩を揉まれつつ、俺は族長と情報交換していた。

 ……これがエルフの村だったらなあ。


「ただ、私たちには先祖――偉大なるドラゴンから賜った使命があります。守るべき宝を取り戻さなくてはなりません」


「宝?」


 リザードマンたちは秘境でこっそり暮らしていたらしい。

 稀に訪れる人間と商売することはあっても、基本的に他種族と交流をもたなかったとか。

 で、ある日冒険ついでにやってきたのが勇者だ。


「我々の村が魔族に襲われたとき、勇者は守ってくれました。

 それは非常にありがたかったのですが、見返りに一族の宝を要求したのです。

 宝を守ることが一族の使命にして存在意義。譲ることなどできませんでした」


「あいつはロクなことしねぇな」


「全くだ」


 ホルンが鼻を鳴らした。

 元ユニコーンのホルンも、「乗ればハクがつくから」というしょーもない理由で『収納』された。

 このアイテムボックスは勇者被害者の会でもあるわけだ。


「代わりの報酬で満足しなかった勇者は、宝を持ち出そうとしました。しかし宝は隠された手順を踏まなければ力を発揮しません。

 それに気がついた勇者は方法を教えろと迫りました。私が拒否すると勇者は人質として村の者を『収納』したのです」


「ひどーい!」


 ドクンちゃんも憤慨している。

 魔王を倒すのは立派な行いだけど、迷惑かけまくるのはダメだろう。

 実際リザードマンの宝が無くても魔王倒せたわけだろ?

 俺ごと魔王を滅した聖剣を思い出した。

 俺の転生特典だったもんな、あれ。


「それでも拒否した私は宝とともに『収納』されました……いつか口を割らせてやるぞ、と」


「つまりこのアイテムボックスのどこかにある宝を探しているわけね」


「えぇ、そしてはぐれた仲間も見つけたいのです」


 俺が助けた一団は探索部隊の一つだったらしい。


 族長は俺に協力をもちかけてきた。

 はぐれたリザードマンと一族の宝を見つけたら届けてほしいんだそうだ。

 代わりに村の自由な出入りと、探索で得た情報やアイテムの共有が提示された。

 こちらとしても活動拠点が得られるのは助かる。


「俺からも条件がある。そっちが見つけたアイテム……見せて?」


 ちょっとかわいくおねだりしてみる。

 ホルン、お前顔背けやがったな。


「必要とあらば差し上げますとも」

 

 交渉成立だ。

 マミーとリザードマンは固く握手を交わした。

 そういえば、と俺は思い出す。


「魔族ってなに? モンスターと違うの」


「なんと魔族を知らんのですか!?」


 黄色い瞳を真ん丸にする族長。

 どうやら知らないと非常識のようだ。

 ドクンちゃんに視線を送ると、手を横に振っている――知らないらしい。


「魔族は異界の神を祖とする一族です。モンスターを配下にとりこみ、この世界を手中に収めようとしています」


「そいつらのリーダーがあの魔王ってことね」


 なるほど納得。

 『魔王』ってゲームじゃ頻出単語だけど具体的な設定って様々だよね。


「左様……ですが、まるで魔王に会ったような口ぶりですな」


「俺と一緒に殺されたからね、勇者に」


「なんと!!!」


 族長を始め、リザードマンが色めき立った。

 ついでにホルンも。

 あれ? 話してなかったっけ。


 自分たちを封印した勇者が魔王を倒した事実は複雑だったようだ。

 総合的には喜んでるみたいだけど。


「しかしマミー殿は魔族の配下ではない様子。なぜ魔王とともに?」


「それはこれから話すよ」


 俺は身の上話を語り、族長は魔族と配下のモンスターについて教えてくれた。

 魔族に操られるモンスターは見るからに雰囲気が変わって、鑑定すると明らかに違う結果が出るんだそうだ。

 俺の鑑定結果は当然クリーンらしい。


「まさかマミー殿が転生者だったとは……これも御先祖様のお導きですな」


 合掌する族長。

 ご先祖様のおかげか。

 リザードマンは女神じゃなくて先祖――ドラゴンを信仰しているのね、好印象。


「じゃあ明日から早速かかろう……あらリゼルヴァおかえり」


 赤い鱗のリザードマンが歩み寄ってきた。

 さきほど俺が湖へブン投げたリゼルヴァだ。

 案の定、全身ずぶ濡れだ。

 村一番の強者らしいが普通に勝ってしまってちょっと申し訳ない。

 俺と族長を交互に見て口を開いた。


「マミー、なかなかやるな」


「喋れるんかい!」


 トカゲの口から流暢な共通語が飛び出した。

 さっきまで族長に通訳させてただろうが。

 あの下りは一体何だったんだよ。


「私は弱いものに合わせない。お前は強さを証明した、だからお前の言葉を話す」


「リゼルヴァは利発なわりに頑固でしてな」


 ほほ、と笑う族長。

 脱力した俺にリゼルヴァは続ける。


「明日からの探索、途中まで私が先導しよう。

 それとこれまでの戦利品を見せてやる、気に入ったものがあったら持っていけ」


 来い、と顎をしゃくった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る